この問題を需要側であるユーザー企業から見ると、様相が異なる。ユーザー企業では質と量の両面から不足感が目立っているという調査結果になっている。質と量の両面で、前回の調査からはやや緩和しているが、依然として不足感が強いという状況だ。ユーザー企業の不足感について田中氏は「内製化の圧力が強まっていることで、量的な不足感を感じているのではないか」と分析している。田中氏が分析する内製化の圧力もまた、景気低迷の影響と見て取ることもできる。SIerなど外部に任せずに、コストを削減するために内製化を進めようという潮流ともいえよう。
ユーザー企業が抱える、質量両面の人材不足感には、もう一つの潮流も加わる。ユーザー企業のIT部門の役割が変化しているという流れだ。かつてユーザー企業のIT部門といえば「業務効率化のためのシステムを作る」(田中氏)部門だ。だが、現在のIT部門の役割は「ITを経営に組み込む」(田中氏)ことになりつつある。具体的にいえば、システムの設計や開発、その後の運用保守という役割から、システムの企画という役割が主体になりつつあるということでもある。もっといえば、システム企画のための調査もIT部門の役割になっている。
ユーザー企業のIT部門は、ただでさえコスト削減のために内製化の圧力を受ける一方で、その上に、ITを経営に組み込むための活動も必要とされているという状況だ。こうしたことから、緩和されたとは言え、ユーザー企業のIT人材の不足感は質量の両面から、依然としてあると分析できることになる。
では、IT人材へのニーズはどのように変化しているのか。今回のIT人材白書では、企業が必要としている人材の変化を職種という観点から分析している(図6、ここでの職種はIPAが提唱する「ITスキル標準(Skill Standards for IT Professionals:ITSS)」で分類している)。
ベンダー企業が求める職種は、「プロジェクトマネジメント(PM)やアプリケーションスペシャリスト(APS)への需要が減少する傾向にあることから、(システムの)開発系人材に対する需要に変化が見られる」(田中氏)という。その一方で、新しい技術がどんどん活用される状況を受けて、「高度な技術力を持ったITスペシャリスト(ITS)へのニーズが高くなっている」(田中氏)。加えて、システムの開発から運用、保守までを外部に委託する「ITアウトソーシングに対する需要増加の影響を受けて、ITサービスマネジメント(ITSM)へのニーズが高まっている」(田中氏)という状況だ。
職種ごとのニーズをユーザー企業で見ると、テクニカルスペシャリストが増加傾向にある(図7)。これは、先の田中氏が分析する内製化の圧力を受けて、社内システムの開発、導入、保守を担うテクニカルスペシャリストが必要とされている傾向にあると言える。
「ビジネスにおけるIT活用が進む中で、ユーザー企業の側でも技術力の高い人材を確保しようとする動きを反映しているのではないか」(田中氏)
「ITSSは普及している」は本当か?
先にまとめたように、今回のIT人材白書の個人での満足度調査で最も低かったのが、「社内での今後のキャリアに対する見通し」だ。満足度調査からうかがえるのは、現在携わっている仕事にある程度の満足感はあるものの、将来の仕事に対して漠然とした不安を抱えているという思いだ。「社内での今後のキャリアに対する見通し」で満足感が低いというのは、現在のIT関連の仕事の将来が見えにくいということの表れとも表現できるだろう。