事業の継続性確保
12日の午前には、福島県の原子力発電所の問題が徐々に報道されるようになっていた。事態が深刻化するなか、イルグ氏はリモートでの事業継続を決断した。
12日午前、イルグ氏は自身を補佐する機関であり、主要部門の本部長以上で構成する「シニア・エグゼクティブ・チーム」に連絡し、当面は自宅からリモートで作業するよう指示を出した。東京サンケイビルや建築の専門家から「この建物は安全だ」という確証を得られるまでは、在宅勤務などリモートでの業務遂行をするべきだと判断したのだ。
通常とは異なる環境での勤務を支えたのは、確固としたワークフローだったという。

「我々は、しっかりとしたワークフローを持っている。そのため、社員がどこにいようとも、営業やサポート、人事管理の業務であっても、効率よく事業を継続できる」
「今回のような大震災があった時でも、そして原発の問題で複合的な危機が広がっていた時でも、我々はリモートで事業を継続するためのビジネスプロセスを持っている。SAPジャパンをグローバルのチームがしっかり支えるという体制を即座に取ることで、事業の継続性を確保することができた。これにより、顧客に対するサポートを継続することができた」
リモート作業による事業継続の確保を終えた12日の時点で、イルグ氏は事前に策定していた事業継続計画が正常に機能していることを確信した。一方、福島県の原発の状況は、予想を上回るかたちで悪化していた。以後、SAPジャパンは社員の安全確保に重点を移していく。
より安全な環境を目指す
リモートによる事業継続を確信した後で、SAPジャパンは社員に対して、より安全なところに移動したい者がいれば会社として支援することを伝えた。また、メンタルケアが必要な社員には、産業医を用意してサポートにあたったという。
「非常に特別な状況であるため、仕事を続けるのが不安だという者もいる。いったん職場を離れたいという社員がいれば、自分の安全のためにそうしてほしいと言ったのだ」
社員にはリモート作業や移動オプションを提示したが、「(東京本社)オフィスは一刻も閉鎖していない」とイルグ氏は強調する。
週明け月曜の14日からは、本社のグローバル危機管理センターと連携し、顧客、社員、パートナーに必要な対応を行った。震災発生からのこの期間について、イルグ氏は後に「私のキャリアで、これほど迅速に多くの重大な決断を行ったことはなかった」と振り返っている。