各界のエグゼクティブに価値創造のヒントを聞く連載「ZDNet Japan トップインタビュー」。今回は、ERPの世界的な大手で、最近はモバイルやインメモリ・データベースに注力する独SAPで、最高情報責任者(CIO)を務めるOliver Bussmann(オリバー・ブスマン)氏に話を聞いた。
ブスマン氏は8月下旬の来日後、CIOとしての自身の取り組みや、同社主力製品であるインメモリデータベースソフトウェアやモバイルソリューションの自社利用について記者向けに説明した。
自社の情報システムがSAP製品でうまく回っている、という記者説明会での同氏の解説は、CIOの取り組み紹介と同時にSAP製品のマーケティングを兼ねており、ある意味で「賢い」ともいえる内容だった。ここでは、ブスマン氏のIT活用への考え方と、売り上げ目標なども見据えた上でのIT部門としての今後の方向性を紹介する。全体を通じて「俊敏性が要求されるSAPのCIOという仕事に大きなやりがいを感じている」と話していたのが印象的だった。
HANA+モバイルの効果を追求するSAP社内
SAP社内では、自社の主力製品を最大限に活用してシステムを構築している。具体的には、ERPのアプリケーションに蓄積した膨大なデータをインメモリ技術を利用するデータ分析ソフトウェア「SAP HANA」で分析し、販売予測を立案し、それをいち早くiPadのようなタブレット端末で閲覧できるようにした。

SAPユーザーに限らず、来日後に様々なCIOと会ったというブスマン氏
HANAの高速な分析力は、例えば全国に多数の店舗を展開する大規模な小売チェーンにおいて、全国の売り上げ状況のレポートを経営層がいつでも閲覧できる環境の構築を可能にする。これにより、さまざまな経営判断をデータの裏づけを持った上ですばやく下すことができる。
従来型の方法の場合、インメモリ技術を使えないことによるハードウェアおよびソフトウェアの制約により、大量のデータソースからデータウェアハウスを作成し、用途によってさらにデータマートとしてデータを絞る必要があるため、時間も手間もかかっていた。
「販売実績のレポーティング出力で、データの遅延を以前の2時間から数秒へと短縮した」(ブスマン氏)
「ERPの会社」というイメージがいまだに強いSAPだが、Sybase買収やモバイル重視へのシフトなど、この2、3年で戦略を大幅に変えてきている。SAPジャパンのリアルタイムコンピューティング事業本部長を務める馬場渉氏は「CIOが変わると会社が変わるんだなと思った」と話す。環境が大きく変化する中で、実際のところブスマン氏はどんな考えでSAPのIT部門を率いているのか。
--今回来日した目的は何でしょうか?
日本のITチームやSAPのユーザー、潜在顧客である日本企業のCIOに会うことです。また、SAPのユーザーグループやパートナー企業、さらに調査会社のガートナーのアナリストやブロガーなどさまざまなインフルエンサーとも会うことになっています。
--日本のCIOと会って印象に残ったことはありますか。
多くの日本企業のCIOが、モバイル、ビッグデータ、インメモリ技術をキーワードにイノベーションを強く意識している点が印象的でした。多くの企業がHANAの性能を評価してくれたと考えています。