本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、情報通信研究機構の坂内正夫 理事長と、日本オラクルの芝好勇治 セールスディレクターの発言を紹介する。
「これからのICTの研究開発は、社会とのディスカッションを一層深めていく必要がある」(情報通信研究機構 坂内正夫 理事長)
情報通信研究機構の坂内正夫 理事長
独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)が7月25日に開いた記者会見で、今年4月からNICTの新理事長に就任した坂内氏が、情報通信分野に対する所見やNICTの活動概要について語った。同氏の冒頭の発言は、その会見でNICTの活動における基本姿勢を述べたものである。
坂内氏は、1975年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了(工学博士)。東大生産技術研究所の教授や所長を歴任。その後、国立情報学研究所の所長を務め、今年4月に現職に就いた。長年にわたってマルチメディア情報処理の分野で先駆的な研究を行い、成果を上げてきた日本のICT研究開発の第一人者である。
NICT理事長として今回が初めての会見となった坂内氏はまず、「情報通信分野は今、新しいパラダイムに移りつつある」との所見を語った。その新しいパラダイムは、これまでの情報通信分野の変遷からすると、第3のフェーズになるという。
同氏によると、20年ほど前までの第1フェーズでは「いかにコンピュータや通信システム作るかが主眼」だった。その後、数年前までの第2フェーズでは「いかにネット上にサイバー世界を作って活用するかが主眼」だった。だが、これからの第3フェーズでは「サイバー世界と実世界の融合が主眼」になると。そこで重要になってくるのは……と続けて述べたのが冒頭の発言である。
NICTでは今後、こうした第3のパラダイムに照準を当てて研究開発を進めていく方針だ。坂内氏はその具体例として現在取り組んでいる研究テーマの中から、自律分散ワイヤレスネットワーク技術、電波センシング技術、サイバーセキュリティ技術、新世代ネットワーク技術、フォトニックネットワークシステム、宇宙通信システム、他言語コミュニケーション技術、時空標準技術、脳情報通信融合研究、バイオICTなどの概要を説明した。
そして坂内氏は最後に、これからのNICTの活動におけるスローガンとして「O3 NICT」(オーキュービックNICT)、すなわち3つの「O」に取り組むことを掲げた。1つ目は、一丸となって日本の情報通信分野にイノベーションを起こす思いを込めた「One」、2つ目は、国の研究機関として開放された運営を図る意味の「Open」、3つ目は、世界に向けて優れた成果を発信していく意気込みを示した「Outstanding」である。
このスローガンは、まさしく新理事長としての決意である。マルチメディアをはじめとしたICTの研究開発に豊富な経験と実績を持つ坂内氏がNICTをどう生かし、日本の情報通信分野の活性化にどのようなインパクトをもたらすか、大いに注目しておきたい。