「Identify is the New Money」ブックレビュー:現金は消え去ってしまうのか

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生

2014-11-21 07:00

 50年前、海外旅行を計画する者は、旅行中にどの程度の金が必要かしっかり計画を立て、必要な分だけトラベラーズチェックを購入し、不測の事態に備えた分も準備していた。150年前であれば、信用状を申し込み、その銀行の海外取引先で資金を入手していたことだろう。現在旅行者は、現地に着くまで金のことなど考えもせず、到着後にATMにて自国の銀行口座からその国の現金を引き出している。さらに最先端を行く旅行者であれば、キャッシュレスで世界を巡り歩き、クレジットカードや携帯電話で支払いを済ませるだろう。David Birch氏もその1人で、携帯電話がクレジットカードになる日を待ち望んでいる。


Identity Is the New Money ● 著者:David Birch ● 出版社:London Publishing Partnership ● 110ページ ● ISBN 978-1-907994-12-8 ● 7.99ポンド

 Birch氏は、スペシャリストの集まるコンサルタント会社Consult Hyperionの創業ディレクターだ。同氏は著書「Identity is the New Money」(「アイデンティティこそ新たな金」の意)の中で、主に携帯電話を中心とした新技術が、アイデンティティと金に対する考え方を大きく変えた事実について解説している。

 ここでまず用語を定義しておこう。金とは、交換媒体物であり、価値のつまった倉庫であり、数を記録するシステムである。より正式に言うと勘定単位のことで、単に通貨や硬貨、紙幣のことを指しているわけではない。通貨は、2者間の取引において価値を示すために使われるものだ。硬貨は、売り手が買い手を信用していなくても、支払われたものが硬貨であれば支払いがなされたと信用できるものだ。Birch氏によると、金そのものの存在は現状のシステムによって崩れ去り、工業時代には合っていたものの現在のニーズや状況にはうまく適合しないとしている。

 アイデンティティというものも同様に複雑だ。クレジットカードがアイデンティティを示すものなどと考えないかもしれないが、昔の信用状のように、売り手に商品代が支払われることを保証するものである。昔、人々はみな村に住み、全員顔見知りで、顔そのものが証明書になっていた(今でもロンドンの一部ではそうである)。こうした状況においてはアイデンティティ=現金というわけではないが、それでも支払いは保証される。

 Birch氏は、現代のイギリスのアイデンティティも崩壊していると述べている。マネーロンダリング防止策「Know Your Customer(顧客を知ろう)」法によって、銀行口座を開設することが難しくなっていることもその一例として挙げる。証明書として利用できるものの範囲は限られており、銀行が法的にやってもよいとされる常識とはほとんど何の関係もなくなっている。代わりに、皆が作っているソーシャルグラフを銀行が構築してみてはどうだろうか。そうすれば現金は必要なくなり、通貨が栄える。携帯電話で金の振り替えをしようがマイルに変えようが、売り手が合意さえすれば何でもいいとBirch氏は主張する。

 Birch氏の現金に対する憎しみに同意するかどうかはさておき、同氏の考えは常に興味深く刺激的である。Birch氏に言わせると、現金はかさばる上、製造や輸送、監視のコストもかかり、高額紙幣は犯罪者以外には役に立たないとのことだ。そのうち、より公平で効率的なものに取って代わり、現金はなくなってしまうだろうと同氏は考えている。金は一世代で一度は変化するとBirch氏は述べており、それがまさしく今だというのだ。さて、どうだろうか。現金は何千年も使われている媒体で、それをなくしてしまうのは難しいようにも思えるのだが。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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