映画「スティーブ・ジョブズ」レビュー:波瀾万丈の人生を2時間に集約

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生 2016年03月18日 06時00分

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 事実を基にした最近の娯楽映画をどれだけ見たいと思うかどうかは、真実が気になるかどうかにかかっていると言っていいだろう。「The Program」(2016年夏に日本国内で公開予定)は、元自転車ロードレース選手Lance Armstrong氏の犯した罪を追求したスポーツライターDavid Walsh氏の13年間を適切に描いている一方で、2010年に公開された「The Social Network」(日本公開は2011年)はそうでもなかった。あの映画は、脚本家のAaron Sorkin氏がBen Mezrich氏の著書「The Accidental Billionaires」を参考に書き下ろしたが、同書は想像の世界をセンセーショナルに描いているとして批判を浴びている。中でも、Mark Zuckerberg氏が頭のいい女性にフラれた反動でFacebookを作ったというSorkin氏の話は間違いだ。Zuckerberg氏は、Facebook創業時にはすでに現在の妻であるPriscilla Chan氏と付き合っていたのだから。


「スティーブ・ジョブズ」(原題「Steve Jobs」) ● 監督:Danny Boyle ● 脚本:Aaron Sorkin ● 制作年:2015年(日本公開:2016年2月12日)

 映画「スティーブ・ジョブズ」(原題「Steve Jobs」、日本公開2016年2月12日)の脚本では、Sorkin氏は良いスタートを切っている。徹底して慎重に執筆されたと評判のWalter Isaacson氏の著書をベースにしたほか、Jobs氏の生前にIsaacsonのインタビューを断った同氏の長女、Lisa Brennan-Jobs氏へのインタビューも行った。Isaacsonの630ページにも渡る著書は、さまざまな出来事が詰め込まれすぎていると誰もが感じたことだろう。そんな話を約2時間でカバーしきれるのだろうか。

3つの章で描かれたJobs氏の生涯

 Sorkin氏は、小説家F. Scott Fitzgerald氏による「アメリカ人の人生に第2章などない」という言葉を無視し、第3章までのストーリーを展開することにした。この映画の第1章は、話の中で失敗として描かれている1984年のMacintoshのリリースで、第2章は誰もが大失敗と認めるNeXTの話である。そして第3章は、Jobs氏の長年に渡る成功へとつながるiMacの発表だ。

 製品発表そのものが映画の中で描かれているわけではない。その発表の裏で起こった出来事や、興奮した観客、報道陣などが描かれている。度胸はあるものの常にイライラしているJobs氏のアシスタント、Joanna Hoffman氏(演:Kate Winslet)が、意地悪な上司に立ち向かう姿や、Jobs氏(演:Michael Fassbender)がいつも誰かを非難している姿、また自分の思い通りに物事を動かそうと誰かを叱りつけている姿を、この映画では見ることができる。

 Sorkin氏の描くJobs氏は、徐々に丸くなっていく。部下が次第にJobs氏の要求に対応できるようになってきたことも理由の1つだが(iMacの発表において、ある部下がJobs氏に「非常用出口のサインを5秒間消灯できます」と告げているシーンはその一例だ)、2人のすばらしい女性の愛情のおかげでもある。その女性とは、長女のBrennan-Jobs氏(演:Mackenzie Moss、Ripley Sobo、Perla Haney-Jardine)と、もう1人はもちろんHoffman氏である。ただしHoffman氏は、なぜJobs氏とベッドを共にしたことがないのかを尋ねられ、「愛し合っていないからよ」と答えているのだが。

 映画の登場人物は、真実に基づいているというよりは、さまざまな要素が入り交り脚本上ドラマチックに作り上げられている。それに、数多くの事実は省略されている。例えば、1991年からJobs氏の妻であったLauren Powell氏やその子どもたち、Appleで500日のみCEOを務めたGil Amelio氏、Jobs氏のガンや治療に対するかたくなな姿、iPhone、iPad、AppleのキーデザイナーであるJony Ive氏、そしてPixarのことについても触れられていない。一方で、Appleの歴史に詳しくない人は全くついていけそうにない会話も数多く含まれている。

 映画ではデザインについてあまり描かれていない。誰もデザインに関わっていないからだ。この映画で描かれているのは、Appleや個人の過去について登場人物が果てしなく口論する姿で、その結果Jobs氏が時間通りステージに立つことができるかどうかに焦点が当てられている。講演が始まる前の密なやり取りでは、Steve Wozniak氏(演:Seth Rogen)や、Andy Hertzfeld氏(演:Michael Stuhlbarg)、Jobs氏に代わってAppleのCEOに就いたJohn Sculley氏(演:Jeff Daniels)、そして娘のBrennan-Jobs氏とその母であるChrisann Brennan氏(演:Katherine Waterston)との争いが描かれている。

 Jobs氏がこうしたシーンで良く描かれることはあまりないが、それが映画を面白くしているかというとそうでもない。そのため、Sorkin氏の表現が好きでない人は、この映画に引き込まれないかもしれない。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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