好評連載中の「三国大洋のスクラップブック」は、産業界のみならず社会全体に異様な存在感を見せ始めたアップルと、現代のアメリカ社会の関係を紐解くようにして始まった。
第1回「アップルがヒールになる日…?」では、グローバル化と高度資本主義の「負」の側面を象徴する存在としてのアップルに注目。第2回の「アップル対アップル」では、オバマ大統領の課題を解決するように発言されたスティーブ・ジョブズの言葉を紹介している。いずれにおいても、New York Times(NYTimes)の1万語に及ぶ特集「THE iECONOMY」を下敷きにした。
第3回となる本稿では、ジョブズの提言を踏まえたであろうオバマ大統領の年頭教書演説の検証から始めよう。(ZDNet Japan編集部)
オバマ大統領の年頭教書演説 主眼は「製造業の雇用創出」
アップルの決算発表と同じ日に、東海岸のワシントンではオバマ大統領の年頭教書演説が行われた。その内容は、いま一番の争点が「雇用」の問題であり、その対策の効果が選挙民に実感されなければ、大統領選での再選さえ覚束ないと考えていることがはっきりと示されたものとなっている。
試しに全体で約6900ワードほどあるこの演説の原稿を「job」という単語でgrepしてみたところ、40を超える箇所でこの言葉に言及があることがわかった(ただしそのなかには一箇所"Steve Jobs"というのも含まれてはいるが)。
ここでは、細かく章立てされたスクリプト付きのビデオがみられるNYTimesのページを手がかりに、アップルと関連しそうな部分に焦点をあてて内容を追っていく。
President Obama’s State of the Union Address - NYTimes
この演説のはじめに、今年のテーマは「国内の問題」("The America Within Our Reach" 02:39から)と宣言しているのは、オバマ大統領がすでに「イラクからの撤退」という公約を曲がりなりにも果たし、さらにオサマ・ビンラディンの問題を片付けた、その実績を踏まえてもの。ここですでに、「新世代のハイテク製造業や他の高賃金の雇用」("An America that attracts a new generation of high-tech manufacturing and high-paying jobs.")と述べているが、この点についてはすぐ後に具体的な指針を示すための前振りといえよう。
この後、国内問題のなかでも最も優先順位が高いのは経済の問題であると、そういっているのが「経済的な課題と再生」("Economic Challenge and Recovery" 03:37から)だ。ここでは現状の窮状に至った3つの原因——国外へのアウトソーシング(outsourcing)、不良債務(bad debt:サブプライムローンを指す)、いんちきな見せかけの利益(phony financial profits:主な対象はウォールストリートか)を挙げ、さらにここ30年ほど続いてきた富の格差の拡大=二極化の問題にいま手を打たないと、「米国の価値観」("American values")——だれでも一生懸命働きさえすれば、家族を育て、家を買い、子供を大学にやり、老後の蓄えも少しはできる……といった形で具現化される米国民への約束やある種の信念の体系——が損なわれ、米国社会の屋台骨が揺らいでしまいかねないと警告している。
そして、この二極化に歯止めをかけ、経済を再生させるためのアプローチ(指針)を示したのが、次の「米国製造業(の再生)」("American Manufacuturing")であり、具体的な項目として一番初めに挙げられている。
この優先順位の高さはいやでも目に付く。
「企業経営者のみなさんへの私からのメッセージは至って簡単なもの——つまり『自分たちの国に雇用を取り戻すために、自分に何ができるかを問うて欲しい(そうしてくれたら、米国政府はできるだけのことをする)』ということだ」という一節は、見方によってはかなり挑戦的とも受け取れる(註1)。
ただし、実際にアップルをはじめとするテクノロジ系多国籍企業に影響が大きそうなのは、その次の「法人税改革」("Corporate Tax Reform")のほうだろう。(註の終わりに次ページへのリンクがあります)
註1:オバマ大統領による経営者への提言
"Tonight, my message to business leaders is simple: Ask yourselves what you can do to bring jobs back to your country, and your country will do everything we can to help you succeed."