ありがとう、スティーブ・ジョブズ--限りなく遠い存在としてのジョブズ

ZDNet Japan Staff 2011年10月06日 14時45分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 情報設計(Information Architecture)に詳しい長谷川恭久氏が、スティーブ・ジョブズの死去に寄せたエントリーを投稿した。いつも氏の側にいたアップルを通して、スティーブ・ジョブズへの思いを綴っている。(ZDNet Japan編集部)

特集:スティーブ・ジョブズの功績

 私が最初にMacに触れたのは、PowerPC Macで1994年のことです(どのモデルかは記憶にないです)。アメリカに留学中のときにホストファミリーが購入したもので、時々触っていました。学校にはブルースクリーンが目に刺さるIBMのパソコンしかなかったので、Macのやさしさを感じるインターフェイスは驚きでした。当時はどこか人を寄せ付けない雰囲気をもっていたパソコンでしたが、Macには逆に人を引きつける『何か』があったのは今でも覚えています。用事がないのについ立ち上げてしまう・・・そんな存在でした。

 その後、Macは私の中では遠いあこがれの存在でした。iMacが登場したことで、高価で手の届かないMacという印象はだいぶなくなったものの、踏み切る理由を見つけることが出来ずWindowsを使い続けていました。

 転機になったのがデザイン学科を専攻したことと、プロスペックのMacを低価格で購入することができるPower Mac G4 Cubeが登場したこと。わずか1年で生産終了したCubeですが、自分のキャリアをスタート出来たのも、Appleという会社の魂に触れることができたのもCubeのおかげです。アメリカで購入しましたが、帰国の際わざわざ輸送して使い続けた思い出のMac。あれから機種は何度も変えましたが、そのときからずっとMacを使っています。

 その間に、Appleは私の音楽生活をiPodによって激変したり、モバイルの新しい付き合い方をiPhoneやiPadを通して教えてくれました。

 学生のときから常に私に何かを訴え続けていたApple製品の生みの親Steve Jobsが10月5日に亡くなりました。Appleファンであれば、誰でも考えたことであろうこの日。けど、まさかこんなに早く来るとは想像していなかったかもしれません。

 僕にとってのSteve Jobsは、勇気のある人であり闘う人。

 Appleのシンプルは、製品やUIだけでは成し遂げることが出来ません。サービスだけでなく業界そのものを巻き込んだムーブメントを設計したことがシンプルに繋がっていると思います。普通の人であれば、そこまで大きなスケールで考えて設計することはまず考えないでしょうし、大きなリスクであると批判するでしょう。常識・無難という考え方に常に疑問を投げかけ、ニーズに応えるのではなく、ニーズに気付かせるデザインをしつづけたところが他のテクノロジー会社との大きな違いだと思います。こうした「Think Different」は、反対勢力と困難があることを承知で実行するという勇気が必要だと思います。そして、最後まで諦めずに闘う力があるからこそ形になっているのではないでしょうか。

 彼の人生をみてもそうでしょう。癌になっても他界する直前まで自分のビジョンのために闘い続けることは勇気以外なにものでもないと思います。

 誰もがSteve Jobsのように世界を変えることは出来ないでしょう。ただ、何かを変えるということは、たとえ自分の職場という小さな世界でさえ、大きな勇気と闘う力は必要だと思っています。彼はそれに気付かせてくれるインスピレーションを与えてくれた人です。

 アメリカにいた当時、ある教育関連のカンファレンスに参加したことがあります。目的は、当時Appleが開発していたPowerSchoolのプレゼンをしに来たSteve Jobsを見にいくためです。私が座っていた席からではSteve Jobsは豆粒のように小さくスクリーンを通してでしか確認することが出来ませんでした。

 近づいたと思っても限りなく遠い存在・・・それがSteve Jobsなのかもしれません。Apple製品を通して常に私たちの近くにいる存在であると同時に、私たちより何歩も先を見ている近寄り難い人。あのカンファレンスで見たSteve Jobsの距離感が彼の存在そのものを表していたのかもしれません。

 ずっとこのまま遠い存在だと思います。それでも彼のように勇気をもって闘うということで、自分の世界に何か変化をもたらすことが出来ればと思います。

 ありがとう、Steve Jobs。

ZDNet Japan編集部:本稿は長谷川恭久氏のブログ「could」からの転載です。

Keep up with ZDNet Japan
スティーブ・ジョブズに関する記事は、特集「スティーブ・ジョブズの功績」や、CNET Japanの「特集:スティーブ・ジョブズ」にまとめています。
ZDNet JapanはFacebookページTwitterRSSNewsletter(メールマガジン)でも情報を配信しています。現在閲覧中の記事は、画面下部の「Meebo Bar」を通じてソーシャルメディアで共有できます。

長谷川恭久

ブログ「could」主宰の「デザインする人」

デザインやコンサルティングを通じてWebの仕事に携わる活動家。Webとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで講演を行ったり、多数の雑誌で執筆に携わる。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

関連ホワイトペーパー

連載

CIO
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]