ネットでさらし者にされた被害者のその後--2冊の新書から学ぶ

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生 2015年07月17日 06時00分

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 数カ月前、Monica Lewinsky氏がTEDでのスピーチとVanity Fair誌でのエッセイにて主張していたのは、インターネットによって加速した世界レベルでの公共の場における恥さらしの被害者第一号は彼女だということだった。1998年にLewinsky氏と元大統領Bill Clinton氏との性生活がトークショーのコメディアンや政治情報サイトDrudge Reportのネタにされた当時にTwitterなどは存在しなかったが、彼女の言いたいことは理解できる。そして今、こうした状況は加速の一途を辿っているのだ。怒り狂った群衆によって、人生があっという間に変わってしまうこともあるのだから。


So You've Been Publicly Shamed ● 著者:Jon Ronson ● 出版社:Picador ● 256ページ ● ISBN: 978-0-330-49228-7 ● 16.99ポンド

 Lewinsky氏の話は、Jon Ronson氏による著書「So You've Been Publicly Shamed」(「公共の場で恥をさらされてしまったそうで」の意)の冒頭に出てくる話ととても似ている。Ronson氏がインタビューした人たちはトラウマに陥っているとう。仕事をなくし、雲隠れし、再就職先候補の担当者や新たな知り合いがインターネットで自分の名前を検索すると過去が知られてしまうという避けられない瞬間を恐れている。こうした状況に陥っているのはほとんどが女性だ。スキャンダルの渦に巻き込まれた際、同意に基づいた上での性行為を行った男性側の立場に立つのが一番安全なのだ。Clinton氏や、英国でセックススキャンダルに巻き込まれたMax Mosley氏は、その後も有力者としての地位をキープしている一方で、Lewinsky氏はロンドン大学の経済政治学部にて社会心理学の修士号を得ていたにも関わらず、就職には苦労した。

 Ronson氏の著書は、彼自身の体験談から始まっている。Ronson氏になりすましたボットに対し、同氏は削除要請したものの聞き入れてもらえなかったが、その後なりすました当人らはTwitterから姿を消すこととなる。人々の非難が集中したためで、Ronson氏は気分がよかったという。一方でRonson氏は、非難された側はどう思ったのだろうかと考えた。Ronson氏は、ダンスインストラクターが経営していた売春宿の客の中に牧師がいたという事実が発覚したメイン州ケネバンクを訪ねた。Ronson氏は徹底的に調査し、「恥さらし撲滅」ワークショップにも出席。また、裁判官と有罪判決を受けた殺人犯との関係が多くの罪の根源になっていると非難された元裁判官も訪問した。さらには、オンライン上でいやがらせをするのは、サイバースペースが物理的なスペースと同様高級化されて奪われないようにするためだと主張する画像掲示板群4ChanのメンバーMercedesが誰かも突き止めている。このほか、ロールプレイ型ポルノグループPublic Disgraceや評判管理企業を訪問。こうした調査でRonson氏は、いくつもの有名な神話が偽りであることを暴いたり、著名な心理学者Philip Zimbardo氏の研究を異なる観点から見直したり、割れた窓ガラスを放置してはいけないという治安維持論に反対するなどしている。

 Ronson氏は、われわれが今、1787年にはひどすぎるのでやめるべきだと考えられていた手法を取り入れているとしている。1787年とは、米国建国の父であるBenjamin Rush氏が、屈辱こそ「死刑よりもひどい罰だ」として、さらし台やむち打ち柱などを廃止しようとした年である。Ronson氏は、現在われわれが辿っている道の先には保守主義と調和があり、「われわれは正常であることの境界線を、正常でない人をけなすことによって定義しようとしている」としている。自由意思論者はこうした状況について、過去に何もできなかった者が力を持ったことを示しているのだと主張するかもしれないが、単に悪いジョークを言ったりそのジョークを非難したりしただけで、永久にその不名誉を世界中に知らしめるほどの罰を与える行為は妥当なのだろうか。Ronson氏は、Facebookに投稿した写真によって非難を浴びる羽目に陥ったLindsay Stone氏の検索プロフィールを評判管理担当者が浄化する様子を見て、これは自己検閲だと述べている。

 本書は面白いのだが、解決策については何も書かれていない。ただ解決策に近い手法として、LEDライトの信号が実際のスピードと制限速度を比較するようなフィードバックループを挙げ、それがわれわれを保守的な方向に導いているとしている。


Hate Crimes in Cyberspace ● 著者:Danielle Citron ● 出版社:Harvard University Press ● 352ページ ● ISBN: 978-0-674-36829-3 ● 29.95米ドル / 22.95ポンド / 27.00ユーロ

 一方、メリーランド大学の法律学教授Danielle Citron氏は異なった見解を示しており、著書「Hate Crimes in Cyberspace」(「サイバースペース上のヘイトクライム」の意)にて法を駆使すべきだと主張している。Citron氏は数多くの被害者へのヒアリングを実施。中でも20人について深く調査し、同書を出版した。

 同書の中でCitron氏は、3人の女性の話を取り上げている。Ronson氏のケースと異なり、3人は特に悪いことをしてもいないのに群衆の怒りを買ったのだ。Citron氏は、その3人の名前を明かしているものの(1人は仮名)、3人を主に「テクノロジブロガー」(Kathy Sierra氏)、「法学部の学生」(Nancy Andrews(仮名)氏)、「リベンジポルノの被害者」(Holly Jacobs氏)としている。Sierra氏が執筆したユーザーインターフェースに関するすばらしい記事は、彼女(とその子ども)をレイプや殺害の脅迫を受けるまでに追い込んだ。Andrews氏は、彼女の今後のキャリアを故意に傷つけようと企んだ同級生らから何年にも渡って攻撃された。そしてJacobs氏は元ボーイフレンド(と言えるのか?)から被害を被った。

 Citron氏は、インターネットを傷つけることなしには何もできないといったような意見や、言論の自由に関する法律、また人はもっと強くなるべきだといったような一般の態度を否定するところから始めている。Citron氏はインターネット上での被害を、1980年代や1990年代に違法だと定められたセクハラやドメスティックバイオレンスと比較、そろそろインターネット被害に関する社会的態度や法律を定めるべきだと主張している。問題は、どのようにして定めるかだ。

 Citron氏は、どのような手法を取ったとしても完全に満足のいくものにはならないと述べている。本名を使うと定めることで、匿名性による最悪の罵倒は避けられるかもしれないが、そうすると告発者が発言しにくくなると共に弱者が助けを求めにくくなってしまう。そこで同氏は、匿名性を禁止するよりも、暴言などを吐くと匿名性という特権が奪われることにすればよいのではないかと提案している。アバターを使うといったデザイン戦略により、ネット上では距離があるように感じることを防ぎ、人間を相手にしているのだと思い出させるようにする方法も考えられるが、これも性差別的態度を生み出しかねないとCitron氏は言う。Googleが、攻撃的な発言の可能性があるといった警告を出すことがあるように、発言に対する反撃のような手法も一部は有効かもしれない。親が子どもの行動を把握していれば、親が子どもを制止することができるかもしれないし、Citron氏もそうすべきだと主張している。また、学校でデジタル世界における市民権について教えることもできるだろう。

 それに、Citron氏は法律も活用すべきだと考えている。言論の自由にもすでに制限があるほか、ストーカーを規制するような法律も定められている。必要なのは法の執行だ。たいていの場合問題は、法が適用されることを知らなかったり、罪の本質を理解する専門家がいなかったり、苦情を真摯に受け止めなかったりといったことにある。またCitron氏は、例えば雇用主が人を雇うときにオンライン上で応募者の名前を検索し、その結果が採用の判断に影響を与えることを禁止するといったように、被害者への影響を制限すべきだとも述べている。さらに同氏は、一定の状況下においてはISPがユーザーをもう少し監視してもいいのではないかと考えており、それを怠った場合には制裁処置をとることも提案している。この提案は、Citron氏が失速しているMySpaceをいい例として挙げている時点で少し説得力に欠けてはいるのだが。

 Citron氏は本の最後にて、3人が回復に向かっていると述べている。テクノロジブロガーを苦しめていた犯人は、AT&Tの顧客情報サービスをハッキングしたことで懲役刑に処された。これによりブロガーは気持ちが開放され、執筆を再開しているという。法学部の学生は現在司法省に勤務しており、リベンジポルノの被害者はハラスメントに反対するサイバー公民権イニシアチブを設立、Citron氏も取締役に名を連ねている。Ronsen氏が挙げた例は、インターネット上での発言は行動そのものにもなり得る可能性があることを示している。Citron氏のアイデアは表現の自由を破壊することなく導入できるだろうか。一部は可能だろう。Ronson氏が言うように、自ら群衆に参加しないところから始めてみてはどうだろうか。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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