日本マイクロソフトなどが参加する業界団体「Windowsクラスルーム協議会」は11月28日、教育ITに関するイベント「Education Day」を都内で開催した。
日本マイクロソフトの支援を受けて授業でのIT活用を実践しているMicrosoft Showcase Schools認定校の教師5人によるパネルディスカッションでは、教育ITの将来の可能性が語られた。
左からつくば市教育局 総合教育研究所副所長の毛利靖氏、立命館小学校の六車陽一氏、東みよし町立足代小学校の土井国春氏、姫路市立安室小学校の吉田雄一郎氏、日野市立平山小学校の折茂慎一郎氏
Microsoft Showcase Schoolsは、MicrosoftがIT教育先進校を独自に認定し、生徒や授業をサポートするプログラムだ。パネルのファシリテーターを務めた日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャーの原田英典氏によれば、同社では国内の認定校6校に対して、具体的な取り組み方法は提示せず、各学校の担当者が独自のアイディアで授業にデバイスやアプリケーションを取り込み、それぞれの結果を公表しているという。
原田氏の「教育ITを実践する上でどのような視点を持つべきか」との問いかけに対して、東みよし町立足代小学校の土井国春氏は、「以前、研修で訪れた韓国では教育用SNSを導入していたことをヒントに(エンタープライズSNSの)Yammerを導入した」と校内SNSの導入理由を説明。
その実践のためには、「新しいチャレンジが受け入れられる学校文化と、子どもたちが楽しめる授業作りが重要だ。本校では、保護者が取り組みを認めてくれた部分も大きい」(土井氏)と語った。
教育ITの推進には市長や校長のリーダーシップが重要
教育ITを実証する上で教育者はどのような準備が必要なのか。この問いかけに対して、日野市立平山小学校の折茂慎一郎氏は「本校には変化や過労を嫌うような風潮がない。『失敗してもチャレンジしてみよう』という校長のリーダーシップが大きかった」と振り返り、学校長などリーダーの旗振りが重要だと説明した。
また、公立学校の教員は定期的に転勤するためノウハウが蓄積しにくい傾向がある課題については、「教員が入れ替わっても、情報を教え合える雰囲気が学校全体にある」(折茂氏)と同校が教育ITを継続して実践できる理由を語った。「(ITを活用した授業では)児童たちが意欲的で目の輝きが違う。個別学習でも自然と互いが学び合い、教え合えるシーンを目にする。教育ITは、すべての面でよい循環を生んだ」(折茂氏)
姫路市立安室小学校の吉田雄一郎氏は、「(ICT教育を実践する上で)一部から否定的な意見もあった」と振り返る。しかしながら、「団結力の強い学校だったため、教師たち全員でデバイスを活用するための努力を重ねてきた。自分たちで授業での活用方法を考え、教師同士が他学級の授業を参観し、ICTデバイスが役立つケースを共有した」(吉田氏)。
さらに、「他のShowcase Schools参加校の授業も参考にしながら実践を続けることで、驚くような授業のアイディアを多数得ることができた」と述べ、学校間でノウハウを共有することが重要だとの考えを示した。
吉田氏の意見を受けて、原田氏が「地域内の他校に広く教育ITのノウハウを啓発する方法」を尋ねると、つくば市教育局 総合教育研究所 副所長の毛利靖氏は、「教育長や市長の理解度、校長が前向きであることが重要」だと発言。
毛利氏によれば、つくば市の教育予算は平均レベルに留まり、自治体としては中規模程度だという。そのような状況でも教育ITを広めることが出来た理由の1つは、教育長や市長、校長などのリーダーシップがあったためだと説明した。
子どもたちに2045年問題に対峙する力を
日本マイクロソフトの原田英典氏
教育ITを推進した先にある可能性について、立命館小学校の六車陽一氏は、「将来的には、小学生がビックデータを活用する時代が来るかもしれない。(コンピュータが人類の知識レベルを超えると言われている)2045年問題が起こるまで残り30年。
児童たちのことを考えるとSTEM教育によるグローバルリーダー育成が重要だ」と語った。最後に原田氏も、「Ray Kurzweil氏のシンギュラリティ理論(2045年問題)に対応するためにも、今後ますます教育ITが重要である」と語り、パネルを締めくくった。