「IoTデバイスから収集される非構造化データを、どのようにして意志決定に役立つ情報に昇華させるか。単なる分析ではなく、データの意味を学習し、理解し、予測を立てた上でユーザーに提供する。それを実現するのがWatsonであり、唯一無二の技術だと確信している。今後10年間、Watsonと同様の能力を有するものは登場しないだろう」
こう語るのは、IBM Watson IoT事業部でコマース&教育担当ゼネラルマネージャーのHarriet Green氏だ。
IBM Watson IoT事業部 コマース&教育担当ゼネラルマネージャー Harriet Green氏
2月に開催した「IBM InterConnect 2016」でIBMは、すべてのIoT領域にWatsonを組み込み、「Watson IoT」として取り組む姿勢を明確にした。同社は2015年12月にはミュンヘン(ドイツ)にWatson IoT部門の本部を設立、日本でも3月1日に「Watson IoT事業部」を新設している。
コンサルティング会社のMcKinseyは、IoTの経済効果が2025年には4兆~11兆ドル規模になると予測しており、中でも工場系の制御系管理や保守支援(予測的メンテナンス)で導入が進むと試算している。日本でも製造業や輸送貨物管理、スマートグリッド、公共交通/情報システムなどでの導入が検討され始めており、IDC Japanでは、2020年には市場規模が13兆8000億円に達すると予想している。
「必要なのは、膨大なデータから効率的に知見を見いだすことだ」とGreen氏は力説する。センサやデバイスを使ってあらゆるデータを収集することは容易になった。しかし、同氏によると、収集されたデータのうち90%は活用されずに捨てられ、さらに残りの3分の2データも1日後には役に立たなくなるという。
こうした捨てられているデータからも知見が得られれば、大きな差別化要因になる。そのためにはコグニティブ(認知)コンピューティングが必要であるというのが、IBMの訴求ポイントだ。
すでにIBMでは30超の産業別Watson IoTソリューションを4000社以上の顧客に提供している。Watson IoT部門には30億ドルの予算が投入され、研究開発だけでなく、今後は積極的なパートナーシップ締結も行っていく予定だという。
基調講演でGreen氏は、数字を紹介しながら「IBMがIoT市場を牽引している」と強調した
InterConnect 2016期間中、IBMはドイツSiemensとの協業を発表した。Siemensが提供するクラウドベースのビル管理プラットフォームである「Navigator」にWatsonの機能を統合。Green氏は、「今回の協業は、Watsonで空調や電力消費を効率的に管理して維持コストを削減するというだけではない。ビルに“インテリジェンス”を持たせ、不動産の価値そのものを向上させるものだ」と説明する。
エレベーターやエスカレーター、自動ドアの製造を手掛けるフィンランドのKONEもWatson IoTを活用した“インテリジェントビル”の運用に取り組んでいる1社だ。同社はメンテナンスや故障予知といった管理だけでなく、各フロアの人の流れをセンサデータなどで分析。そして、「どのエレベーター機がどの階の人を乗せて、どの階で停止すれば、コスト効率がよく、かつエレベーター待ちの人数を最小限することができるのか」までも判断し、運用に反映させているという。
Green氏は「自動車、製造業、電気、通信、金融など、あらゆる分野でWatson IoTは導入されている」とその実績を強調する。