Watsonで実現する「人間味」
もう1つGreen氏が強調するのは、Watsonで実現する「人間味のあるIoT」の実現である。IoTは物理的な世界をデジタル化する。その時に求められるのが「人間に寄り添うという思想」だとGreen氏は主張する。
今、Green氏が注目しているのは、医療やヘルスケアの領域でのWatson IoTの活用だ。例えば、ウェアラブルデバイスを利用し、体調管理や薬の服用時間、食事内容までを把握して、コンディションに応じたサービスを提供できるIoTシステムがあれば、高齢者の自立を支援できる。「こうしたサービスが現実になる時に問われるのは、(IoTが)どこまで“人間に近付けるか”だ」(同氏)
2020年までに300億個のIoTデバイスが普及すると予測されている
「人間味を帯びたサービスの提供」は、Watsonのもう1つのテーマだろう。それを具現化したものが、カンファレンス中に発表された、新たな「Watson API」だ。
すでに同社は30超のWatson APIを提供しているが、今回発表されたのは、人間の感情や言葉の“行間を読む”APIだ。テキストから感情を分析する「Tone Analyzer」と「Emotion Analysis」、顧客の分類に基づいて画像を認識する「Visual Recognition」、情感を込めてテキストを読み上げる「Expressive Text to Speech」が発表された。いずれもPaaS「IBM Bluemix」上で利用できる。
中でも興味深いのがTone Analyzerだ。文脈から怒りや嫌悪感、喜びといった感情を読み取る。さらに送信者の心理や状況なども加味したうえで分析し、その真意をグラフ表示で可視化する。
Tone Analyzerを実際に活用しているのが、カップルマッチングサービスの「Connectidy」だ。サービスを運営するPraescriptoの共同創業者でプレジデントを務めるDineen Tallering氏は、「伝えたい内容が誤解された経験を持つ人は60%超に上る。好意を伝える文章には性差があり、コミュニケーションのズレを起こすことも少なくない」と説明する。
Connectidyでは一対一でやり取りされるメールやチャットをTone Analyzerで収集、分析し、その結果から得られた相手の状態を感情や文章力、社会性のカテゴリで可視化する。実際にTone Analyzerを導入したことでマッチング度合いは67%も向上したという。
Tone Analyzerが相手の自分に対する感情をメールの文面や返信の頻度などから分析し、可視化する。「Joy(喜び)45%、Displeasure(不満)29%、Distaste(嫌悪)11%、Fear(怖れ)9%」と出た場合、(将来的に)Watsonは「脈アリ」と判断するのだろうか…
Watson部門のゼネラルマネージャーDavid Kenny氏は、新Watson APIについて、「人間の感情に沿ったコミュニケーションを実現するアプリやサービスの開発ができる」とコメントしている。