より賢く活用するためのOSS最新動向

変わる「OSSコミュニティ」との付き合い方

吉田行男

2016-04-07 07:00

 こんにちは、日立ソリューションズの吉田です。前回 は、OSSのビジネスモデルについて紹介しました。前回ご紹介した4つのビジネスモデルを少しだけ復習すると下表のようになります。

名称 詳細
ディストリビューションモデル 自社またはコミュニティで開発されたソフトウェアの配布とサポートを行うモデル
システムインテグレーションモデル OSSを活用したシステム構築およびプロフェッショナルサービス(コンサルテーションを含む)を実施するモデル
サービスモデル OSSを活用して構築したサービスを提供するモデル
その他 ハードウェア販売などの目的達成のためにOSSを活用するモデル

 そして最近は、これらビジネスモデルが以前のように単独で存在するのではなく、いくつかの組み合わせで実現される、いわゆる「ハイブリッドモデル」がトレンドであることをご紹介しました。なぜ、ハイブリッドモデルがトレンドなのか、具体例を挙げてみます。

 例えば、前回ディストリビューションモデルで代表例として紹介したRedHat社の「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」は、Linuxディストリビューションとして、デファクトスタンダードとしてゆるぎない地位を勝ち取りました。企業がLinuxを導入する場合は、無条件にRHELを選択してもらえる状況になっています。そのような状況であれば、ディストリビューションモデルだけでも十分ビジネスとして成立するだけのボリュームがあり、単独のビジネスモデルが成立します。


 しかしながら、ハイブリッドモデルの事例としてご紹介したCloudera社の場合はRHELとは状況が違います。Hadoopを活用するプロジェクトは総じて大規模になりますが、その際、ディストリビューションモデルでは単に「CDH(Hadoop関連プロジェクトの商用ディストリビューション)」の年間サブスクリプションの費用のみが収入になります。案件がLinuxを導入するほど多数あれば問題ないのですが、そんなわけもなく、ボリューム的に考えるとそれだけではビジネスとして成立しません。とはいえ、Hadoopを導入するにはまだまだ相当な技術レベルを要求されるので、システムインテグレータやエンドユーザーのみでシステムを構築することは困難です。このように、案件数としてはそれほど多くない、しかし、相当な技術レベルを要求されるシステム構築をするということでハイブリッドモデルが成立するのです。

OSSの位置づけが変わり、コミュニティとの付き合い方が変わった

 このようにOSSを活用するビジネスの進め方が変わってきたのはなぜでしょうか?それは、OSSの位置づけが変わってきたことと大きく関係があると思います。

 以前は、OSSは商用ソフトの代替品という位置づけで、OSSを活用する際の視点は「コスト削減」や「ベンダーロックインの回避」でした。しかしながら、昨今のOSSはもはや商用ソフトの代替品ではなく、イノベーションを推進するためのドライバという位置づけに変化してきました。それに伴い、“OSSを活用する”ことの意味が、「USE」から「MAKE(イノベーションを共同で推進する)」に変わってきました。要するに、OSSおよびOSSコミュニティとの付き合い方に変化が求められてきたということです。

 「MAKE」のための環境をつくるためには、コミュニティとのお付き合いが必要になってきます。コミュニティとのお付き合いとは、一言で表現すると“貢献する”という言葉になります。一般的にOSSコミュニティに“貢献する”というと“コードに貢献すること”だと思われていますが、それだけではありません。2005年に社団法人情報サービス産業協会(JISA)がまとめた『オープンソースビジネスに取り組む SI 企業のための企業ポリシー策定ガイドライン』に下記のような貢献手段の例が挙げられています。

<貢献手段の例>

  1. 人的リソースを提供することでコミュニティに貢献する
  2. ソフトウェアやハードウェア資産を提供することでコミュニティに貢献する
  3. ソフトウェア資産をOSS化し、社会に貢献する
  4. コミュニティに活動資金を提供する
  5. システムインテグレーションのノウハウや、当該プロダクトの評価結果を情報提供し、コミュニティに貢献する
  6. コミュニティで活躍するコントリビュータを雇用し、当該プロダクトの開発支援に貢献する
  7. ドキュメンテーションを整備し、当該プロダクトの利用者支援に貢献する
  8. 当該プロダクトの有償サービスを提供し、利用者の利便性と当該プロダクトの普及に貢献する
  9. コミュニティで活躍できる人材を育成し、コミュニティの安定と、継続的な活動支援に貢献する

 このように、直接的に貢献する、コミュニティの活動そのものを支援する後方支援的なもの、ノウハウの公開やドキュメントの整備などそのOSSの普及に欠かせないものなど、さまざまな貢献の形があります。では、ここからコミュニティとの付き合い方について、「直接的な貢献」と「ソフトウェア資産をOSS化し、社会に貢献する」について具体的に説明したいと思います。

コミュニティへの直接的な貢献とは

 直接的な貢献とは、下記のようなことです。

  1. 不具合を報告する
     活用しようとしているOSSに不具合が存在する場合、それをコミュニティに報告します。本来的には、この後説明するように解決するために何らかの協力をするとより良いのでしょうが、まずは、どこに問題があるかを明らかにするだけでも、大変大きな貢献になります。
  2. 不具合を解決する
     活用しようとしているOSSに不具合が存在する場合、そのままの形では活用できません。その場合に、その不具合を解決するために修正するためのコードを作成し、パッチとしてコミュニティに送付します。送付されたコードをソースコードのリポジトリを修正する権限のあるコミッタなどに査読をしてもらい、問題がなければソースコードに反映されます。過去には、日本企業の技術者が大量にLinuxカーネルのパッチを送ることにより、Linuxカーネルの品質が一気に向上したと言われたこともありました。基幹システムに近いところで活用するためには、非常に高い信頼性が求めれられます。日本企業の技術者の一番得意とする場面かもしれません。
  3. 機能を追加する
     既存のOSSの機能が不足していて、そのままでは活用できない場合があります。そこで、OSSに機能追加を提案することになります。その時に一番大事なことは、その機能が、そのOSSを活用している他のユーザーにとっても有益であることです。

     2000年代の前半には、Linuxカーネルにはダンプ機能もトレース機能もありませんでした。これでは、問題が発生したときに原因を調査する時間が非常にかかります。そこで、日本の大手ベンダーが協力して、カーネルダンプ(LKCD)やカーネルトレース(LKST)といった機能を開発しました。これによって、Linuxシステムで問題が発生した時に、障害によるダウンタイムが短くなったことは非常に多くの企業にとって有益なことでした。

     では、最近の事例として、どのように新しい機能が決められていくかをOpenStackを例にご紹介したいと思います。

     OpenStackの場合は、1年に2回「OpenStack Summit」が開催されます。その「OpenStack Summit」の会期中に「Design Summit」が開催されます。その「Design Summit」では、今後半年間の開発項目について議論し、アクションアイテムを決定していきます。そのような議論の場で、新しい機能を提案し、参加者に議論してもらい、採用されれば、次の半年間をかけて、その新機能を開発するということになります。

ソフトウェア資産をOSS化し社会に貢献する

 次に「ソフトウェア資産をOSS化し、社会に貢献する」形のコミュニティとの付き合い方について、ミドクラの事例をご紹介したいと思います。

 ミドクラは2014年11月に、ネットワーク仮想化ソフトウェア「MidoNet」をOSS化しました。このMidoNetは、足掛け5年で25億円を要して開発したソフトウェアです。OSS化した理由は、同社がMidoNetを提案した先の米国大手企業から、「ベンチャーが開発するソフトウェアは、OSSでなければ導入できない」と言われたからでした。

 MidoNetは、いわゆるオーバーレイ型のネットワーク仮想化を実現するソフトウェアで、物理的なネットワーク構成の上に、仮想的なレイヤ2ネットワーク、レイヤ3ネットワークを構成し、ファイアウォール、ロードバランス、アクセスコントロールやセキュリティグループなどの機能を実現しています。


 このようにITインフラの重要な部分で活用するソフトウェアは、利用者側の立場に立って考えると、継続的に利用できなければいけません。開発ベンダーが買収されたり、倒産したりというようなことが発生し、継続的に利用することに支障が起きるようでは困るのです。従って、OSS化されたソフトウェアを活用することが最善の方策になります。

 一方、OSS化は提供側に何のメリットもないわけではなく、公開したOSSを他社のエンジニアがダウンロードし、検証した結果をブログ等で公開してくれるようになり、認知度がそれまでに比べ飛躍的に向上したというような事例もありますし、技術の高さを証明することもできます。

※本文中記載の会社名、商品名、ロゴは各社の商標、または登録商標です。

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