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OpenStackの次は「コンテナ」「SDNファブリック」へ:ミドクラ加藤隆哉氏

羽野三千世 (編集部)

2016-04-19 07:00

 OpenStackの仮想ネットワーク管理コンポーネント「Neutron」のプラグインであるオーバーレイ型ネットワーク仮想化ソフトウェア「MidoNet」を開発するMidokura。ビジネススクール「グロービス」の創業メンバーでありCSKホールディングスの新規事業開発担当役員であった加藤隆哉氏と、Amazon.comで巨大分散システムのアーキテクトだったDan Mihai Dumitriu氏が、2010年に東京で共同設立した企業だ。加藤氏に話を聞いた。

--加藤さんは20代でグロービスを創業し、その後、モバイルコンテンツ開発の「サイバード」の代表取締役社長、CSKホールディングスの執行役員を経て、2010年にMidokuraを共同設立しています。Midokuraを創業した経緯を教えてください。


Midokura 取締役会長 共同創業者 兼 ミドクラジャパン 代表取締役 加藤隆哉氏

 グロービスの最高執行責任者(COO)だった頃から、ベンチャーキャピタリストとしてテックベンチャーの創出に関わってきました。その中で危機感を持っていたのは、日本のテック系IT企業はほぼ内需依存で、世界に通用するグローバルカンパニーが無かったという点です。

 自動車や家電では、ホンダ、トヨタ、ソニーのような輸出産業でグローバルに技術競争力のある企業が存在するのに、ITの、特にインフラ分野でそのような企業がまだない。ITインフラ分野で、ホンダ、ソニーに並ぶグローバルテックカンパニーを創りたいという思いで、Midokuraを起業しました。

 当時、企業のITインフラが仮想化、クラウド化に向かう中で、サーバの仮想化分野にはVMwareという強大なマーケットリーダーが存在しました。一方、ネットワーク仮想化の分野は当時ほぼ誰もいないブルーオーシャンでした。また、クラウドではAWS対抗のオープンなインフラ技術の開発が始まっていました。そのような世界を俯瞰し、新しいクラウド向けのネットワーク仮想化ソフトウェア「MidoNet」の開発を始めたわけです。

--Midokuraは創業間もない2010年7月からOpenStack開発コミュニティのメンバーになっています。当時、OpenStackのその先の市場成長をどのように予想していたのですか。

 当時は、エンタープライズでのOpenStack活用はもっと早く立ち上がると予想していました。2014年にはOpenStackの商用デプロイメントが本格化するかと思っていたのですが、実際は、欧米でMirantis、Canonicalなどが提供する商用ディストリビューションが売れ出したのは2015年に入ってからでした。

 さらに、OpenStackのSDN(Software Defined Networking)部分の本格利用は、欧米でも2016年からようやくです。2015年11月のレポートでは、当社のようなサードベンダー製のプラグインを含むSDNの商用利用事例は全世界で20件程度でした。これが、2016年には100件ほどまで成長する見込みです。

 OpenStackでクラウドを構築した企業が、仮想マシン(VM)10~20台の規模での検証を終え、いざ商用利用に向けてVMを100台、1000台へとスケールアウトさせようとしたとき、標準プラグインのOpen vSwitch(OVS)は大規模環境に耐えないと気付きます。そこで当社のようなサードベンダーのSDNプラグインを検討するわけです。

 MidoNetは2014年にオープンソース化しており、無償のコミュニティ版と、管理ツールを追加した商用版の「Midokura Enterprise MidoNet(MEM)」の2つを提供していますが、MEMの利用が拡大するのは2016年以降です。ビジネスの採算化はまだ先ですね。MidoNetの開発はすでに完了しており、今は、開発投資を中心とした段階から、顧客獲得と売上拡大を目指すフェーズにあります。

 OpenStackの市場の立ち上がりが遅れた理由にはいくつかあると思います。まず、オープンソースのコミュニティで開発されているものなので、なかなかプロダクショングレードにならなかった。それから、インフラの技術なので導入を検討する企業において、検証に時間がかかったことも挙げられます。

--日本のOpenStack市場はどう見ていますか。

 日本は……。アーリーアダプターの動きは早くて、もしかしたらOpenStack分野は欧米に先行できるのではないかと思っていた時期もあったのですが、現状では、過去の先端IT技術と同様に、エンタープライズでの利用は欧米から最低1~2年はまだ遅れていますね。OpenStackの本格利用が始まるのは2017~2018年くらい、MidoNetの利用はそれからだと思います。

 当社は日本で起業した企業ですし、これからも日本市場は大事にしていきますが、今、注目しているのは中国市場です。急速にOpenStackの市場が立ち上がっています。日本と中国の市場成長速度の違いは、OpenStackユーザーグループの人数で一目瞭然です。今、日本のユーザーグループは約300人、それに対して中国のユーザーグループには約3000人います。

 これには中国の国策が影響しています。中国政府は、国営企業や政府関係機関のインフラにはオープンソースを使い、MicrosoftやVMware、Oracle、Amazon.comなど米国ITベンダーの製品サービスを極力排除するようにお達しを出しています。だから、OpenStackが伸びているのです。

 中国発のOpenStack商用ディストリビューションベンダーも登場しました。特に、EasyStack、UnitedStack、99Cloud、AWcloudの4社はずべてベンチャーながらも有力で、この4社と既存の欧米ベンダーが中国のOpenStack市場をけん引していくと予想しています。現在、MidoNetの地域別売り上げ比率は、米国が90%を占め、残りは主に欧州です。これが、近い将来には中国での売り上げ比率が30%を超える構図に変わるかもしれません。

--今のMidokuraのビジネスはOpenStack市場に注力しているように見えますが、MidoNetは、VMware vSphere環境やHyper-V環境のデータセンターにも対応可能です。こちらの市場には訴求しないのですか。


 技術的には、MidoNetはVMware環境でも、Hyper-VのWindows Server環境やAzure Stackでも利用できます。ただ、当社はベンチャーでありリソースが限られているので、今は特にOpenStackへ注力しています。

 OpenStackのクラウドインフラは、SoE(System of Engagement)、Gartnerが言うところのMode2のシステムを支えるものです。一方、VMware環境のデータセンターは、サーバ仮想化の延長で、SoR(System of Revord)、Mode1と言われている世界です。今、MidoNetがフィールドにしたいのは、SoE、Mode2の世界。安価でシンプルに、“明日サービスを始めて10日後には止めよう”という経営スピードを実現するインフラを構成するものとして利用されることを目指しています。

 SoE、Mode2のインフラ技術として、コンテナのネットワーク、SDNファブリックに注目し、新たに開発投資をしています。現在、OpenStackのネイティブコンテナネットワークプロジェクト「Kuryr」を立ち上げたほか、「Kubernetes」や「Mesos」などコンテナ関連の動向も注視しています。

 さらに、MidoNetの技術をベースとしたSDNファブリック製品をまもなくリリースする予定です。MidoNetは、仮想マシンが稼働する全物理サーバにエージェントを置き、そのエージェントが仮想ネットワークをシミュレーションしてパケットをワンホップで飛ばします。新製品は、これをデータセンターのファブリックに応用したもので、各ネットワークスイッチにエージェントを置いてシミュレーションする仕組みです。すでにデモ版製品は出来上がっていて、今月開催のOpenStack Summit Austinで披露する予定です。

--2014年11月にMidoNetを単独でオープンソース化しています。その狙いと、オープンソース化したあとの変化について教えてください。

 オープンソース化した理由は、MidoNetを提案した先の大手米国通信企業から「ベンチャーが開発したソフトウェアをインフラに使うとなると、OSSでなければ導入できない」と言われたからです。ベンチャー企業は買収される可能性も高いですし、いつ潰れてしまうかわからない。OSSにしたことで、提案先の企業との付き合い方はとてもよくなりました。

 オープンソース化に当たっては、単独でやることにこだわっていたわけではなく、当時いくつか存在していたSDNのオープンソースプロジェクトの中でやることも検討していました。ただ、ステークホルダーとの調整に時間がかかってしまいますので、タイミングを逃さないためにも、スピード重視で単独でオープンソース化することにしました。

 企業はベンダーロックインを嫌ってOpenStackを採用するわけです。ですから、SDNもオープンなものを使いたいというニーズが強い。その傾向はさらに顕著になってきており、2014年にはMidoNetは(プロプライエタリの)NSXとコンペになることがほとんどだったのですが、2015年は同じくオープンソースのJuniper Contrailとの2社コンペが増えました。

 オープンソース化すると、たしかに開発投資の回収は遅れます。それでも長期的な観点ではメリットがたくさんあるのです。例えば、プロプライエタリのソフトウェア製品は莫大な市場開拓コスト、製品メンテナンスコストが必要ですが、OSSはコミュニティが使って宣伝してくれるし、バグの報告やメンテナンスもしてくれる。資本力がある大手競合企業と戦っていくのに有利なんです。

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