独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は4月27日、「IT人材白書2016」を発行した。今回の白書では、欧州の欧州委員会(EC)が実施した欧州連合(EU)のIT人材に関する調査(EU調査)の結果を入手し、日本のIT人材動向調査結果との比較を行った。現場の人材不足にあえぐ日本に対し、欧州ではITマネジメント層の増加や、デジタルイノベーションを推進する人材育成に注力しているという結果が出た。
EUでは半数以上がIT企業以外に、さまざまな業種へIT人材が拡大
IT企業とそれ以外の企業に就業するIT人材の割合を見ると、国ごとに違いがあるものの、EU全体では半数以上のIT人材がIT企業以外に所属している。国別では、イギリスとフランスでは5割台半ばのIT人材がIT企業以外に所属し、ドイツでは6割以上が所属している。一方、日本ではIT企業以外に所属しているIT人材はIT人材全体の2割台半ばという結果となった。
ただし、日本の調査では、「IT企業以外の企業」においてはIT部門に所属する(またはそれに準ずる)人材数を調査しており、そのほかの部門のIT技術者等は捕捉できていない。一方のEU調査では、電機エンジニアや情報通信エンジニアなどIT部門以外にいるIT人材も調査対象となっているため、一概に比較はできない。
英独ではマネジメントやプロフェッショナル層の割合が高く、日本はテクニシャン層が半数
ITエンジニアを職種区分別にみると、EU各国でも国によって人材構成に差があることがわかる。ドイツ、イギリスでは、マネジメント層である「マネジメント、アーキテクチャおよび分析」「コアITエンジニア プロフェッショナルレベル」の割合が高く、これらの国では人材数も多い。人数は多くないが、北欧でも同様の傾向となっている。一方、ハンガリーとスロバキアやチェコ、イタリアなどでは「マネジメント、アーキテクチャおよび分析」の割合が15%を下回っている。
一方、日本での調査結果を同様の区分に推計したところ、半数近くが「コアITエンジニア テクニシャンレベル」だった。なお、日本のIT人材動向調査では「その他ITエンジニア」は含んでいないため、推計を行っていない。
英独仏でマネジメント層へのシフトが進む一方、日本ではテクニシャン層が増加
職種区分ごとの年単位の推移をみると、ドイツ、イギリス、フランスでは、全体のIT人材数には大きな変化がないが、職種区分別の割合には変化があり、いずれもマネジメント層の割合が増加している。EUではITのみならず産業全体の競争力を強化するため、マネジメントの役割を負うリーダーを増やすための施策が行われており、一定の効果があることがうかがえる。
これに対し日本では、2011年から2014年にかけてコアITエンジニア テクニシャンレベルの人数は増加しているが、マネジメント層の人材数は2013年以降、減少傾向にあり、割合も減少している。日本では2011年以降、IT人材の不足感が高まり続けており、人材の獲得も進んでいると考えられるが、実際に増加しているのはテクニシャンレベルであることがわかる。
「昨今の社会保障・税番号(マイナンバー)制度に伴うシステム開発や、複数の大手銀行のシステム統合の受託開発といった特需に対して 人材を集めていることが背景であると推測される」(IPA提供)