de:code

ディープラーニングも簡単活用、マイクロソフトのクラウドを使ったAI実践法

谷川耕一

2016-06-06 15:56

 日本マイクロソフトが5月24~25日に開催した開発者向けカンファレンス「de:code 2016」では、最近話題のAIや機械学習に関するセッションも行われた。その中の1つが「機械学習の実践ノウハウ提供します! ~AIで広がる夢を現実にする方法~」と題したセッション。ここでは技術解説をするのではなく、Microsoftのクラウド上のサービスを利用し、実際にAIや機械学習の技術を活用する方法を紹介した。


日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 テクニカル エバンジェリスト 大田昌幸氏

 日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 テクニカル エバンジェリスト 大田昌幸氏によれば、このセッションへの参加でAI機能の具体的なイメージを掴んでもらうことがゴールだと言う。大田氏は、日頃実案件の中でAIや機械学習の話をする機会が多い。

 「実案件で、私が最初にAIや機械学習の話をする際にポイントとしているのは、意思決定者と期待する結果を共有するということです。これはAIを目的にしないことでもある。この領域では手段が目的になりがちです」(大田氏)

認識する弱いAIはすでに実践段階にあり

 もう1つ大田氏が指摘したのが、“強いAI”はまだ実現しておらず、今あるのは“弱いAI”だと言うこと。ここで言う強いAIとは、いわゆる人間を模倣する人工知能のことだ。これはまだまだビジネスで利用する段階にはない。一方で、現在利用できるのが「認識する」AIだ。この認識ができる弱いAIを、同社ではSaaS、PaaSの形ですでに提供している。「顔認識や音声認識をAPIの形で提供しています。SaaSであればそれらはすぐに使えます」(大田氏)とのこと。

 SaaSとして提供しているのが「Cognitive Service」だ。APIで提供されており、画像、音声の認識ができる。PaaSの形で提供しているAI技術としては「Azure Machine Learning」がある。こちらは数値解析が得意な技術だ。もう1つ「HDInsight」というのもあり、こちらは大規模データの解析が得意だ。SaaSと異なり、PaaSを使いこなすにはある程度のコーディングも必要となる。

 IaaSでは、Azure Virtual Machineを活用して認識系、数値解析系どちらのAI技術も利用できる。とはいえ、この場合は「開発者の能力が問われます」と大田氏。何でもできる反面、AI技術を理解しプログラミングなどもしっかりと行えるスキルが必要になると指摘する。

コーディングなしで使えるCognitive Service活用のポイント

 セッションでは、実際にMicrosoftのSaaSやPaaS、IaaSでAIを活用しているユーザー事例が紹介された。


アロバ 取締役CTOの來田泰樹氏

 SaaSのCognitive Serviceの活用を紹介したのが、アロバ 取締役CTOの來田泰樹氏だ。アロバでは監視カメラのシステムを開発しており、監視カメラによる録画システムとCognitive Serviceを組み合わせたソリューションを展開している。MicrosoftのCognitive Serviceには、Face APIとEmotion APIの2つがある。この2つを見た際に來田氏は、衝撃を受けたと言う。

 「Face APIとEmotion APIは簡単に使えて処理も速いです。Face APIの解析精度はかなり高く、Emotion APIも感情が読み取れます。これらを使えば、新しいソリューションができそうだなと考えました」(來田氏)

 來田氏は、Face APIを利用することで簡単に写真の中の顔を分析し、結果をJSON形式で返す様子を紹介した。Face APIを使うと表情の異なる写真でも同一人物だと認識できる。逆に人間がよく似ていると思うような人物の写真でも、きちんと別人と判定できる。Emotion APIは、与えられた映像の中から顔を識別し、その表情を分析する。適用するとハッピーかそうでないかなどを判断し、これも結果がJSON形式で返される。

 これらのAPIを利用する際、Open API Testing Consoleを使えばほとんどコーディングなしでサービスが作れる。コンソールから構築したサービスの実行も可能で、デバッグなどもここから行える。アルバでは、Cognitive Serviceを使ってマーケティングツールを構築した。これを使えば、映像に映っている顧客の満足度などを計測できる。アルバが持っている監視カメラソフトウェア技術も活用し、静止画だけでなくストリーム動画でも分析が可能だ。

 「出入り口のカメラなどで、リアルタイムに人の検知ができます。その際、表情や年齢、性別などを判定することも可能です。VIP顧客の写真を登録しておき、該当者が訪ねてきたらすぐにアラートを挙げる仕組みも簡単です」と來田氏。検知した結果をAzureのクラウドに蓄積し、Power BIを使って分析できる仕組みになっている。

 このシステムを構築する際に、アルバで工夫したところがあると言う。それは、Emotion APIをまず適用して顔を識別し、識別できた顔にだけFace APIを適用するようにしたのだ。Emotion APIのほうがFace APIよりも利用料単価が安いので、Emotion APIで顔を認識させて成功したものだけをFace APIに渡すことで、コストが大きく下がることになる。このようなノウハウがすでにあることも、Cognitive Serviceが実践段階にあることを伺わせる。

 「AIや機械学習のノウハウがなくても、Cognitive Servicesは簡単に使えます。皆さん、まずは触ってみてください」と來田氏は言う。


Face API

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