しかしこの大学校を、ヘッドホンを身につけて、一日中コンピュータの画面にかじりついている学生の集まりだと思うのは間違いだ。学生は小さなグループに別れ、プロジェクトを与えられる。その一部は、42のパートナー企業から与えられた本物のプロジェクトだ。各チームはメンバーが協力して作業を完遂する必要があるため、対等な学生同士でお互いに学び合う環境が生み出される。
筆者が5月に、パリの17区にある42のキャンパスを訪れたときは、学生たちの半分が巨大なオープンフロアでiMacに向かっており、残りの半分は地下フロアでテーブルの周りに集まって共同作業をするか、2階フロアでホワイトボードにアイデアをまとめるかしていた。コンピュータに向かっている学生にしても、その約半分はグループを作り、チームの仲間と作業の計画を立てていた。

42の学生は、多くの時間を共同作業や、お互いから学び合うことに費やしている。
提供:Jason Hiner/TechRepublic
42にいる学生たちは、そこにいたいから来ているのであり、学びたいのだ。42は8万人の応募者から毎年約3500人を選び、選考会を行っている。この選考会は、フランス語で「スイミングプール」を意味する言葉で呼ばれている。「全員をプールに突き落として、誰が生き残るかを調べるんだ」とNiel氏は言う。
そのうちの上位1000人が選考に合格し、晴れて42の学生になる。
「スタートアップは非常に不安定な環境だ。だからわれわれには、自分を取り巻く世界は変わるということを理解できる人間が必要だ」とNiel氏は話す。
確かに、42が一番に掲げる目標は、訓練によって起業家や組織内起業家になれるソフトウェアエンジニアを生み出すことだ。Sadirac氏は、42の成功を測る最も重要な尺度は、学生が起業した会社の数と、それらの会社の時価総額の合計だと述べている。
この学校が始まったのはたった3年前であり、教育プログラムは平均3年で修了するように作られているが、学生たちはすでに70社の会社を起業しており、その時価総額の合計は800万ユーロに達している。
「われわれは、起業家精神を教えているわけではない。学生を、起業家として行動するしかない状況に置いているだけだ」とNiel氏は話す。
42は、この大学校から生まれたスタートアップの株式を所有しているわけではなく、隠れた料金も存在しない。Niel氏は10年分の運営資金として1億ユーロ弱の資金を出資した。そのうち2000万ユーロが設立資金で、1年当たり約700万ユーロの運営費が計上されている。
Sadirac氏がおどろいたことに、この教育プログラムは報道機関やテクノロジ業界から大きな注目を集めた。Wiredは設立前から特集記事を組み、2014年にはテクノロジ業界の有名なカンファレンスであるLeWebに出席した著名な参加者が42に立ち寄り、その後米国で話を広めた。その結果、シリコンバレーの有名企業の最高経営責任者(CEO)たちが、42や、同校が育てているようなエンジニアに対して支持の声を上げ始めた。これには、Jack Dorsey氏(Twitter)、Tony Fadell氏(Nest)、Stewart Butterfield氏(Slack)、Leila Janah氏(Sama)、Keyvon Beykpour氏(Periscope)などが含まれている。