高校生も参加--IoTセキュリティハッキングコンテストに予想以上の関心

阿久津良和

2016-06-21 07:00

 「IoTセキュリティハッキングコンテスト神戸2016」が6月18日に開催された。このコンテストは、“CTF(Capture The Flag)”形式で参加メンバーの腕を競い合うというものだが、今回は、IoTデバイスに意図的に加えた脆弱性を探す。

 主催する神戸デジタル・ラボは、同種のハッキングコンテストを2015年から開始。第1回はオープンソースソフトウェア(OSS)の医療患者情報ツールの脆弱性を探し、170カ所以上の脆弱性を発見。2回目は日本国内の電子カルテ管理ツールを実際にハンティング対象とした。その際も80以上の脆弱性を見つけた。そして今回はIoTをターゲットに選んでいる。

神戸デジタル・ラボ 取締役 セキュリティソリューション事業本部 三木剛氏
神戸デジタル・ラボ 取締役 セキュリティソリューション事業本部 三木剛氏

 IoTデバイスとセキュリティの重要性は多く場面で話題になっているからこそ、今回のテーマに採用したと神戸デジタル・ラボ 取締役 セキュリティソリューション事業本部 三木剛氏は説明する。三木氏は「学生の求める内容と企業が(人材に)求める内容が剥離している。そのギャップを埋める目的で開催した。IoTがバズワード化している今こそ警鐘を鳴らしたい」と意義を強調した。

 コンテストの開催は、IoT時代に伴うセキュリティの重要性を認識した人材育成の側面が大きいと指摘できる。CTFはパケット分析やプロトコル解析、暗号解読といった技術をベースに攻防戦形式、もしくはクイズ形式を用いるのが一般的だが、今回は後者である。

 具体的には、シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi 3」にインストールし、コンテスト用にカスタマイズしたOS「Raspbian」の中に隠したキーワードのヒントを各チームが探し出し、バイナリやファイアウォール、ネットワークといったジャンルごとにポイントを積み重ねていくというもの。10個のヒントは単純なものもあれば暗号化されている場合もあり、参加者はさまざまな手法でキーワードを見つけていく。

コンテストはコンテンツごとに異なるヒントをもとにマッチするキーワードを探し当てるクイズ方式
コンテストはコンテンツごとに異なるヒントをもとにマッチするキーワードを探し当てるクイズ方式

 今回は学生から社会人まで参加し、10チーム計36人。当初は30人の枠を設けていた。だが、実際には40人以上の応募が集まり、施設の関係から数人の落選者が出てしまったが、「予想以上の応募だった」(三木氏)という。学生はIoTデバイスに対する興味から、社会人はIoTがバズワード化している背景や技術を習得したいといった声が集まり、このような結果になったとみられる。

ミラクル・リナックス 代表取締役社長 伊東達雄氏
ミラクル・リナックス 代表取締役社長 伊東達雄氏

 今回のイベントはミラクル・リナックスと台湾のOnwardSecurityが共催メンバーに加わっている。ミラクル・リナックス 代表取締役社長 伊東達雄氏は自社のビジネスになぞらえて、「弊社のビジネスでセキュリティは緊急課題の1つ。技術を蓄積すると同時に、Linux+セキュリティというビジネスの可能性が生まれることを期待している」と説明した。

 また、想像以上に学生の参加者が多いことにも驚かされたという。純粋に自分の知見を広げたい学生や社会人の参加者も多く、あどけない表情をする学生から白髪が混じる方までハッキングを繰り広げていた。

 筆者が伊東氏の説明に共感するのは、「自分の学生時代を振り返ると、こんなコンテストがあればよかった。自身がその気になれば学べる機会がある」という部分である。六十の手習いではないが、参加チームを見ていると、改めてITの勉強をしたくなった。まさに「参加することで刺激を受け取ってほしい」(伊東氏)

各チームのポイントはリアルタイムで集計されている。途中経過(16時時点)のグラフを表示した状態
各チームのポイントはリアルタイムで集計されている。途中経過(16時時点)のグラフを表示した状態
ミラクル・リナックス 技術本部 サポート部 エキスパートLinux開発者 吉藤英明氏
ミラクル・リナックス 技術本部 サポート部 エキスパートLinux開発者 吉藤英明氏

 今回のコンテストには、ミラクル・リナックス 技術本部 サポート部 エキスパートLinux開発者 吉藤英明氏もアドバイザーという立場で参加し、問題作成にも協力した。同氏はIPv6普及に一役買った1人でもある。

 吉藤氏へ各チームの状況について訪ねると、「同じことを繰り返しても問題は打開できない。視野を広く持ってほしい」とアドバイス。また、各チームについて感想を求めると「CTFの進め方を理解しているチームが参加し、最初にクリアするとボーナスを得られるため、経験の差が出ている。だが、(他チームも)参加することで技術的に学ぶべき部分を理解できるため、視野の広がりに通じるはずだ」(吉藤氏)と各チームを鼓舞した。

残り時間1分を切ると、すっかりお手上げのチームや余裕綽々のチームもちらほら。会場にいたPepperによる「順位が変わった」との声に奮起するチームも
残り時間1分を切ると、すっかりお手上げのチームや余裕綽々のチームもちらほら。会場にいたPepperによる「順位が変わった」との声に奮起するチームも

 コンテストで第3位に入賞したのは最後の5分で逆転した「Gambare Tigers Jr」。「日本橋にシリアルケーブルを買いに行って、賞金で補填できたので安心した」と授賞した感想を述べている。

 第2位は終盤の勢いで追いついた「itto-net」。メンバーの1人は「Raspberry Piは目の前にあるのに、なかなかハックできないもどかしさを感じた」と難しさを吐露した。

 そして第1位は当初から優勝候補と目されていた、神戸市の私立灘高校のパソコン研究部を中心にしたチーム「EpsilonDelta」。「スコアを隠されてドキドキしていたが、最後にポイントが抜かれなくて一安心した」と正直な感想を述べている。伊東氏が、朝の9時から夕方の6時までハッキングを続けた参加者の集中力に敬意を表して、コンテストの幕を閉じた。

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