IoT導入の現場

慶応SFCが挑んだ新たな環境データの計測--目を付けた意外なもの

後藤敏也(ぷらっとホーム) 2016年08月05日 07時30分

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 近年、注目が高まっているIoT(Internet of Things)は、企業のニーズだけでなく幅広く社会のニーズにも応えるイノベーションを生み出すポテンシャルも秘めている。そこで重要になるのが、社会の普遍的なニーズに応えるシステムを、長期運用ができる普遍的なものとして提供すること。そして、パートナーシップによる効率的なシステム構築と運用だ。それでは具体的に、IoTは社会にどのように組み込んでいくべきか。

 前編で紹介した兵庫県伊丹市と阪急阪神HDの事例に続き、後編では慶応義塾大学と神奈川県藤沢市による官学協働プロジェクトの事例を紹介したい。

IoTを活用して市内の環境情報を網羅的に可視化する

 このプロジェクトの主人公は、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に勤務する、同大学 環境情報学部の中澤 仁准教授。IoT黎明期より研究を重ね、培ってきたIoTのノウハウをキャンパスがある藤沢市のために役立てられないかを模索してきた。藤沢市役所のIT推進部門や高齢者支援部門、土木技術部門、環境部門などさまざまな部署へのヒアリングも積極的に行ってきたのだという。

 こうしたヒアリングを通じて中澤准教授が注目したのは、環境部門から聞かれた大気汚染物質の測定に関する話。藤沢市では「PM2.5」をはじめとする市内の環境情報を市民に公開しているが、市内に導入されている大気汚染物質測定器は4つしかなく、測定器から距離が離れている市民に対しても多くの情報を提供したいという課題を抱えていた。市内の環境情報を網羅的に計測するためにはどうするべきか。この課題解決に中澤准教授はIoTの活用を考え、藤沢市と慶応義塾大学が協働で環境情報の収集・可視化を行う実証試験「スマート藤沢プロジェクト」を立ち上げたのだ。

低予算で市内の環境情報を網羅的に計測せよ--そのために選ばれた方法

 それでは具体的に、どのようにして市内の環境情報を計測したのか。前編で紹介した伊丹市のように、市内のあらゆる場所にセンサを取り付ければ目的は達成できるが、問題はその方法では膨大なコストが必要となるという点。「スマート藤沢プロジェクト」は開始当時、市内のあらゆる場所にセンサを取り付けるほどの予算は掛けることができなかったため、別の方法を考案する必要があったのだ。

 そこで着目したのが、市内を巡回する自動車。中でも、市内のあらゆる場所を走り、かつスケジュールにのっとって定期的に巡回するごみ収集車に白羽の矢を立てた。環境情報を計測するセンサをごみ収集車に取り付け、市内を走り回ることで環境情報をセンシングするというのだ。

システム開発に求められたのは、通信できる小型ゲートウェイ

 こうして開発されたシステムでは、ごみ収集車に取り付けたセンサがPM2.5、紫外線量、照度、温度、湿度、排気ガス量、気圧などさまざまな環境情報を計測し、集めたデータを慶応大学にあるサーバへとリアルタイムに送信する。この3G回線を通じてサーバへ情報を送信する仕組みとして、ぷらっとホームが開発した3G通信モジュール内蔵のIoTゲートウェイ「OpenBlocks IoT BX1」を採用した。


「スマート藤沢プロジェクト」のシステム概要

 このシステムで求められたものは、ごみ収集車に取り付けても作業の邪魔にならない小型なセンサ機器を実現するための超小型コンピュータであること、そしてデータを送信するための通信機能を内蔵していることだ。OpenBlocks IoT BX1は手の平に乗せてもその小ささが実感できるほどコンパクトな製品であり、センサ機器への組み込みは問題なし。また通信機能の内蔵は、ルータのような通信機器を別に搭載した場合には、システム構成が複雑になってしまう恐れがあるので、特に重要な要件であった。

 加えて、OpenBlocks IoT BX1がLinuxを採用し、かつCPUがIntel Architectureであった点も、採用の大きな要素だったという。センサなどの機器を制御するソフトウェアを柔軟に開発できる点も、IoTのシステムを構築する上で重要な要素である。

公共インフラとITの融合が、新たな価値を生み出す

 この事例の注目すべき点は、従来から継続的に運用している公共インフラに小型の計測モジュールを取り付けるだけで、市内全域の環境情報を計測するという大きな価値を生み出しているところだ。市内全域の環境情報計測という大きなプロジェクトであっても、既にある資産を活用することで手間もコストも大きく抑えて目標を実現できる。

 社会の課題解決のために、公共インフラを最小限の手間とコストで活用してどのように高い価値を生み出すか。その着眼点を模索することで、公共インフラを活用したIoTの可能性はさらに拡大すると言えるだろう。

 中澤准教授によると、市内を循環するごみ収集車を活用して環境情報を計測する「スマート藤沢プロジェクト」のスキームは、同じように市内を循環するごみ収集車のインフラがあれば横展開が可能なので、既に藤沢市以外の自治体とも実証実験の実施を模索しているのだという。今後の取り組みに注目したいところだ。

後藤敏也
ぷらっとホーム株式会社IoTビジネス開発部部長
90年代初頭よりLinuxを始めとするオープンソース市場創成に貢献した日本を代表するエバンジェリストの一人。2000年に超小型Linuxマイクロサーバー「OpenBlocksシリーズ」を生み出し、本シリーズは累計10万台近く出荷されるベストセラーに。現在は、このOpenBlocksシリーズの利点を生かしてIoT市場の開拓と普及に注力している。

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