国内のメガバンクがパブリッククラウドを採用し始めた。2016年5月に三井住友銀行が採用したのに続き、先ごろ三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も採用を決めたとの報道があった。この動き、どこまで広がるか。
国内メガバンクが相次いでクラウドサービスを採用
MUFGは社内システムの一部をAmazon Web Services(AWS)のサービスに移行して刷新することを決めたという。1月23日付けの日本経済新聞が報じた。まずは市場調査やFinTech関連のシステムから移行するとしている。これまではグループ各社がプライベートクラウドの構築、利用に注力してきたが、パブリッククラウドの導入にあわせてグループのシステム共通化も推進する構えだ。
このニュースは、国内のメガバンクがパブリッククラウドを初めて採用したと受け止められているが、実は、三井住友銀行が2016年5月に、従業員の業務効率化とワークスタイル変革に向け、マイクロソフトの「Microsoft Azure」と「Office 365」を導入している。ただ、AWSで外向け業務も視野に入れて、と捉えると、MUFGの取り組みは先進的とも受け取れる。
ちなみに、国内メガバンクを揃い踏みさせれば、みずほ銀行も2016年2月に、次期勘定系システム基盤の一部として従量課金型プライベートクラウドサービスの採用に踏み切った。サービスを提供する日立製作所が発表したもので、これはすなわちホステッドプライベートクラウドサービスである。
こうした動きからすると、国内のメガバンクもいよいよパブリッククラウドを本格的に活用する時代が訪れたとも見て取れる。果たして、どこまで広がるか。
注目すべきは銀行の役割や業務内容がどう変化するか
そこで、せっかくの機会なので、銀行システムの仕組みを紹介しておこう。図に示したのが、銀行システムの全体像である。大まかには「業務系システム」と「情報系システム」で構成され、業務系は勘定系、資金証券系、国際系、対外接続系といったシステムからなる。一方、情報系は経営管理、リスク管理・内部統制、営業支援、融資支援といったシステムからなる。
銀行システムの全体像(出典:金融情報システムセンター(FISC)「金融情報システムとFISC安全対策基準について」資料より)
ネットワークとしてはその名の通り対外接続系がハブの役割を担っているが、銀行システムの中枢となるのは、預金・為替・融資などの業務処理や勘定処理機能(資金決済)を果たす勘定系システムである。
では、その勘定系システムは、実際にどのような道具立てでどんなベンダーが支援しているのか。
まず道具立てについては高い信頼性が要求されることから、多くの場合はメインフレームが長年にわたって利用されている。ただ、その利用形態については、システム共有やアウトソーシングが進んでおり、とくに地域銀行では大半がそうした状況にある。したがって、この動きは今後、クラウドへ移行する可能性が高いといえよう。
地域銀行のシステム共有やアウトソーシングを請け負っているベンダーは、NTTデータ、日本IBM、富士通、日立製作所、NEC、日本ユニシスといった顔ぶれだ。一方、銀行システムの頂点ともいえるメガバンクの勘定系では、日本IBM、富士通、日立製作所、NECの4社が長年にわたって激しい勢力争いを繰り広げてきた。
ただ、相次ぐ都市銀行の合従連衡によって、最近では相互乗り入れする形になっている。それでも4社の間ではどこが主導権を握るか、“威信”をかけた戦いが続いている。
こうした背景の中で、パブリッククラウドがどこまでメガバンクのシステムに広がっていくか。あるベンダー幹部は、「まずは情報系から導入され、今後、業務系へ着実に広がっていくだろう」との見方を示した。
ならば、勘定系にパブリッククラウドが適用される日が来ることはないか。三十数年来、折りに触れて銀行システムの取材をしてきた経験から、当面はありえないと考えるが、今後10年も経てばどうなっているか分からない。
キーワードは「移行」ではなく「刷新」ではないか。なぜ、刷新か。それは今後、経済社会における銀行の役割や業務内容が変化する可能性があるからだ。それに伴ってシステムのあり方も変わる。この話はそうした大きな視点で捉えなければいけないだろう。