顧客からのさまざまな問い合わせに対応するコールセンターは、人工知能(AI)の導入が急速に進む場所の1つだろう。オペレーターの業務支援にAIを活用することで、貴重な人材をつなぎとめたいというのが、企業側の狙いだ。
三井住友銀行 取締役常務執行役員の谷崎勝教氏
日本IBMが開催した「IBM Watson Summit」では、三井住友銀行 取締役専務執行役員の谷崎勝教氏が、コールセンターにIBMのコグニティブ技術「Watson」を導入した成果や、クラウドへの取り組みを紹介した。
同行は、2014年にコールセンターへWatsonを部分導入し、2016年10月から全席で利用している。谷崎氏によれば、Watson導入以前はオペレーターが顧客の問い合わせ内容を理解して、回答内容を資料から探し出すため、対応時間はオペレーターの経験に大きく依存していた。
Watsonの導入では、顧客とオペレーターの会話を瞬時にテキスト化し、問い合わせ内容に合致する回答候補をWatsonがすぐにオペレーターへ提示する仕組みを構築。質問が追加された場合にも、関連する資料からWatsonが情報を表示する。
これによって顧客対応品質の標準化や効率化が図られ、対応内容をWatsonへフィードバックすることにより、回答精度も向上。顧客からの照会1件あたりのコストを60円削減でき、新人オペレーターの離職率が48%減少した。オペレーター人材の確保は、多くのコールセンターで大きな課題となっており、「AIが貴重な人材の定着化に大きく貢献している」(谷崎氏)という。
Watson導入後は、過去のデータをもとに回答候補を表示する
現在は、Watsonの利用を与信業務に関する国内外の拠点からの問い合わせと、法人顧客からの問い合わせ、本店・支店間の商品紹介の業務にも広げている。また、同行に対するサイバー攻撃の分析にもWatsonを利用する。
一方のクラウド利用では、3月に「IBM Bluemix Infrastructure」を基盤とするデリバティブ取引での信用リスク計測システムの構築を発表。パブリッククラウドサービスを使う点が注目された。
谷崎氏によれば、信用リスクの計算には膨大なリソースを消費するため、オンプレミスではリソース消費のピークに合わせたシステムを構築しないといけない。このため今回構築するシステムでは、Bluemix上に同行の専有環境を用意し、消費リソースに応じてスケールアウトできるようにした。
リスク計測では消費リソースの変動が激しいという
新システムの構築期間は、オンプレミスの場合に比べて2カ月ほど短いといい、総所有コスト(TCO)も30%ほど少なくなるという。「パブリッククラウドサービスのTCOは、一時的に安くても長く使うほど高くなるという声があるが、当行の場合が厳し目に見てコストシミュレーションを重ねた結果では、安くなる見通しだ」(谷崎氏)
パブリッククラウド環境ながら専有環境でリソースやセキュリティの確保を実現した
谷崎氏は、社会を支える銀行システムには安定性や信頼性が強く求められる一方で、多様化する顧客ニーズへ迅速に対応する必要性も高まっていると語る。今後は、「ウォーターフォール開発+枯れた技術+オンプレミス」という従来型のモデルと、「アジャイル+新技術+クラウド」の新たなモデルを組み合わせていくとした。