企業や組織を対象にした標的型攻撃メール訓練サービスが人気を博す状況に対し、情報処理推進機構(IPA)が注意を促している。従業員や職員が攻撃メールの脅威を体験し、適切な対処方法を学ぶことが本来の目的であるものの、訓練の内容や結果に行き過ぎの面が生じているようだ。
標的型攻撃メール訓練サービスは、企業や組織の機密情報を搾取するような巧妙なサイバー攻撃手法の増加を受けて、その脅威を疑似的に体験し、不審なメールに気付いた場合にセキュリティ担当者へ速やかに報告するなどの対応を訓練するもの。近年はサービスを提供するベンダーへの実施依頼が殺到している状況だ。
IPAによると、「IPAをかたる不審なメールを受信した」という相談が寄せられ、その多くはIPAの組織名を用いた訓練メールだったという。IPAは、訓練でリアリティを追求する観点から、訓練に用いるメールの文面に実在組織名が使用されているとみる。
不審なメールを受信した際、送信元に確認するのは正しい対処方法であるものの、IPAは訓練で実在組織の名称やドメインを使うことにより、その組織の業務に影響を与える恐れがあると警鐘を鳴らす。例えば、受信者が実在組織に問い合わせることで、組織が事実確認に追われたり、受信者が注意喚起などの善意からSNSへ投稿してしまうことで、実在組織の風評被害が拡散したりするなどの影響が懸念されるという。
こうした場合、状況によっては訴訟問題に発展しかねないといい、IPAは訓練を実施する企業では、実在または酷似する組織名を使わないことが賢明だと解説。独立行政法人名を使用した場合、独立行政法人通則法違反で罰則に問われる恐れがある。実際に不審なメールを受信した人が自前で外部に確認するのではなく、社内のシステム管理部門やセキュリティ責任者に報告するルールや体制を周知することが望ましいと解説している。