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イノベーションのきっかけは「デザイン思考」--HCL

大西高弘 (NO BUDGET)

2017-09-07 07:30

 内閣府が8月に発表した速報値によると、2017年4~6月期の実質GDPの成長率は1.0%(年率4.0%)となり、多くの専門家からも予想を上回る数字として評価された。1~3月期の数字と合わせて考えると、2017年の日本経済は、現在のところ着実な回復基調にある。

 今回の結果の背景には、国内の個人消費の伸びがある。飲食サービスを始め、家電、自動車なども好調だった。このような「上げ潮」の環境下で、多くの企業に求められるのは、少しでも他社にはないサービスや製品機能を開発、提供し、上昇ムードの消費をキャッチアップしていくことだろう。

 そこで今回は、各種企業の業務改革を支援するインド企業、HCL Technologiesのエンジニアリング&サービス部門のプレジデント、GH Rao氏の「デザイン思考」に関する話を紹介し、イノベーションのきっかけづくりの参考にしてもらいたい。

 HCLグループは、10万人を超える従業員を擁し、世界32カ国でビジネスを展開しており、ボーイング787のソフトウェア開発にも参加した。HCL Technologiesは、金融、製造、ライフサイエンス/ヘルスケア、公共部門など多岐にわたる業種に顧客があり、ソフトウェア開発だけでなく、エンジニアリング/R&D、インフラサービスなども手掛ける。同グループは、1998年に日本法人を設立しており、数多くの日本企業のエンジニアリングプロジェクトを担当している。

「人の営み」を起点としたアプローチで製品やサービスを見直す

 デザイン思考は、簡単に言ってしまえば、テクノロジやマーケティング情報から製品やサービス開発を考えていくのではなく、「人の営み」を起点としたアプローチから新しい発想を生み出す手法だ。

 「人を起点としたアプローチ」について、Rao氏は次のような例を示し、解説してくれた。

 「新型の軍用赤外線カメラを開発する顧客のプロジェクトにかかわったとき、デザイン思考を活用して兵士がスムーズにこのカメラを使うには何が必要かを考えた。そして、利き腕ではない手でも容易に操作できる工夫を加えることにした。このカメラを利用する兵士は、多くの場合利き腕は武器の操作に使い、カメラは利き腕ではない側の手で操作する。その状態でも。スムーズにストレスなく使えることが命にもかかわる重要な条件のはずだと、判断した」

「デザイン思考は、ユーザーにとって極めて重要なものを導きだす」と語るGH Rao氏
「デザイン思考は、ユーザーにとって極めて重要なものを導きだす」と語るGH Rao氏

 こうした開発されたカメラは、その後、さまざまな賞を獲得したという。

 「ちょっとした工夫なのかもしれないが、ユーザーからすれば、極めて重要なことを導きだすことが、デザイン思考の役割だ」とRao氏は話す。

 その例として氏は、TeslaのEV車がオプション機能として提供する機能を挙げる。

 「Teslaが提供するオプション機能に、自動充電機能がある。自宅であれば人が車から降りた後、EV車が自動で充電機器に近づき車を利用しない時間帯に充電を済ませてくれる。EV車のユーザーにとって、充電のし忘れは大きな損害をこうむることになりかねない。翌朝、仕事に出かけようとしたらバッテリーがゼロだったということになると、充電時間のためにその日の予定がすべて狂ってしまう。その意味で、自動充電機能はちょっとした工夫かもしれないが、極めて重要な機能なのだ」

 この「ユーザーにとって重要なちょっとした工夫」は、いずれは模倣され「当たり前のもの」になっていく可能性が高い。しかし重要なのは、ユーザーに歓迎されるある1つの役立つ工夫が陳腐化していくことを心配するのではなく、常にそうした新しい工夫を提供し続けることができるかどうかだ。

 軍用赤外線カメラの例で考えてみよう。利き腕ではない手でも容易に操作できる機能を開発したオリジナル企業には、「デザイン思考」によって具体的な成功を導きだしたという実績が残る。既存製品に対するユーザーの声や多額の開発費をかけて生み出されたハイレベルな技術からではなく、あくまで、「人を中心とした視点」から生み出された機能は、市場で驚きを持って受け入れられ、オリジナル企業に対する好感度は高くなる。

 これに対して競合他社は、ユーザーから評価を受けたこの機能を自社製品に、訴訟などを受けないようにして注意深く取り入れ、場合によってはオリジナル企業のものに独自に開発した技術やマーケティングデータなどを加味して、さらに磨きをかけて提供するようになる。

 

 こうした流れは、多くの工業製品市場で起きてきたことだ。競合他社が、先行企業の技術や工夫を取り入れることで、次第に価格競争が激しくなり、利益の確保が難しくなる。

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