海外コメンタリー

ロボットのプログラミングを容易にする「人とマシンのやり取り」の可能性

Greg Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2017-10-31 06:30

 企業にロボティクスが深く浸透していくうえで、大きな障壁が存在している。その障壁を乗り越える鍵は、若手コンピュータ科学者と熟練ソフトウェアエンジニアが握っているのかもしれない。

Fetch Roboticsのロボットアーム搭載型自走式ロボット「Fetch」
Fetch Roboticsのロボットアーム搭載型自走式ロボット「Fetch」

 筆者は最近、ワシントン大学のコンピュータ科学およびエンジニアリング部門の助教授であり、Human-Centered Robotics Labのディレクターを務めるMaya Cakmak氏と話をする機会に恵まれた。

 Cakmak氏の研究は、人とマシンのやり取りに着目しており、特に「デモンストレーションによるプログラミング」(PbD)に力を入れたものとなっている。

 PbDを理解するには、ABBやKUKAといった企業が開発した、人との共同作業を目的とするコラボラティブ(collaborative:協働)ロボットを思い浮かべるのがよいだろう。これらのロボットは、関節を持ったアームを搭載しており、プログラムに従ってものを持ち上げたり、置いたり、機器や部品をテストしたり、単純な組み立て作業を正確にこなすといったさまざまな作業で人を支援するようになっている。

 このいわゆる「コボット」は比較的安価で、人と共に作業するようになっているため、中小企業においてさまざまなユースケースが考えられる。こういったことを考えた場合、大きな普及が見込めるものの、一気に普及が進むところにまではまだ至っていない。

 その理由は、ロボットのプログラミングが簡単ではなく、配備に向けた敷居が高いという点にある。これはロボティクスの専門家が関与することの少ない中小企業において特に当てはまる話だ。そしてロボットがより複雑化し、能力が高まり、センサを多数搭載するようになるとともに、問題はさらに込み入ったものになっていく。

 Cakmak氏と同氏の下で学ぶ学生らは、Fetch Roboticsの「Fetch」と呼ばれる自走式ロボットを用いて、ロボティクスに疎い人でも特定のタスクをプログラムできるようするための新たな方法を探し求めている。

 ここで重要な点とは何だろうか?同氏や他の研究者らは著しい研究成果を上げているものの、コンピュータ科学の素養がない一般人がFetchのようなロボットを上手にプログラムできる日が来るのはまだまだ先になるだろう。さらに、移動しながら一連の込み入った作業を器用にこなしていくような、複雑なロボットの実現については、ずっと遠い未来の話になるだろう。

 その過渡期である現在、コンピュータ科学者と、エンジニアリングの学位を持たないソフトウェアエンジニアが活躍できる「ロボティクスデプロイメント」という新たな業界が生み出されようとしている。この業界は、ロボティクス市場の興隆に合わせて成長していくことを目標にしている。

 以下は、これに関して筆者がCakmak氏とやり取りした内容だ。

——どういった企業が、専門家でなくてもプログラムできるロボットを開発しようとしているのでしょうか?

 一部の企業は、この難問に焦点を絞って取り組んでいます。例を挙げると、Rethink Roboticsの「Baxter」や「Sawyer」はプログラムの容易さを前面に押し出しています。同社のロボットは、工場作業員が現場で手取り足取りプログラムできるようになっているとされており、数多くの関連動画も公開されています。この点を見ても、プログラミングのしやすさに重点を置いたソリューションはあると言えるでしょう。

 ただ、私はロボット関連の企業で働いた経験のある学生たちと話をしたことがありますが、ほとんどのロボットではこのようなソリューションはまだ実現されていません。市販されているロボットのうち、さらに精度の高いものには、300ページを超えるユーザーマニュアルが付属してくる場合もあります。私はそういったコードの一部を見たこともありますが、何をするにも代数や行列変換の知識が必要となっていました。このため、専門家でなくても簡単にプログラムできるロボットというのはまだまだ先の話と言えるでしょう。しかし、米国のRethink Roboticsや欧州のFranka Emikaといった企業は、そうしたロボットの開発に向けて取り組んでいます。

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