海外コメンタリー

IDカード脆弱性を乗り越え「電子国家」化を進めるエストニア

Kalev Aasmae (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2018-01-30 06:30

 バルト海に面する小国であるエストニアは最近、サイバーセキュリティの危機を経験し、同国の電子住民(e-Residents)も影響を受けたが、それでもデジタルID取得の申し込み数は増え続けている。

 2017年9月、エストニアのJuri Ratas首相は特別記者会見を開き、過去3年間に発行された75万枚のIDカードに、潜在的なセキュリティの問題が存在することを明らかにした。これには、数千枚の電子住民向けIDカードも含まれていた。

 ID盗難の危険を避けるには、電子住民もエストニア国民と同じように、IDカードの証明書を更新する必要があった。

 大きな危機は回避され、同国の発表によれば、電子IDの盗難も発生しなかった。しかし電子住民プログラムのディレクターKaspar Korjus氏は、米ZDNetの取材に対して、今回の潜在的な脆弱性の問題は、電子住民プログラムに大きな課題を突きつけたと語った。

 「こちら側では、電子メールやブログ記事で電子住民コミュニティーと十分に連絡を取り、ソフトウェアの更新プロセスを案内した。電子住民はわが国のデジタル社会の正式なメンバーであり、国民や住民と同じように情報にアクセスできなければならない」と同氏は述べている。

 「銀行サービスへのアクセスが必要な人には、『Smart ID』などのソリューションの利用も勧めた。電子住民プログラムのチームは、連絡してきたあらゆる電子住民をサポートするため、全力を尽くした」

 危機の影響は大きかったが、このような出来事からも常に学べることがあるとKorjus氏は述べている。

 「格言にもあるが、エストニア政府には危機を無駄にするつもりはない。これを機に、電子サービスをさらに堅牢なものにしていく」と同氏は言う。

 「すでに約5000種類の電子サービスを提供している政府や企業は、今回のIDカードの証明書の脆弱性とアップデートによって、新しい、より洗練されたセキュリティ体制について考え、より便利な手段を見つけ、早いペースでアップデートすることを強いられた」

 Korjus氏は、今回の危機で新たな電子住民の申し込みが減ったということはなかったと考えている。

 「一方でこの数カ月間、申し込みの数は大きく増えた。われわれは毎週300件以上の申請を受け取っている。またこの数カ月間は、申し込みを行う企業の数が過去最高になっている」(Korjus氏)

 エストニアの電子住民プログラムは2014年12月にスタートした。これはエストニア政府が外国人にデジタルIDを発行する事業で、電子住民は、世界中のどこに住んでいても、オンラインで欧州連合(EU)圏の企業を運営できるようになる。

 Deloitteの分析によれば、このプログラムは運用開始から2年間で、エストニアに1440万ユーロ(約20億円)の経済効果をもたらしており、そのうち140万ユーロが純利益、1300万ユーロが間接的な社会経済的純利益だという。

 Korjus氏は「電子住民プログラムの運用3年目終了時点では、143カ国からの2万7000人の電子住民がおり、それらの電子住民によって2847社の企業が新たに設立された。電子住民を所有者とする企業は合計で4300社以上にのぼり、280万ユーロ(約3億8000万円)の労働税が支払われた」と述べている。

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