ゲームソフトウェアのデバック事業を手がけるデジタルハーツは6月6日、企業向けセキュリティ事業を開始すると発表した。米ベンチャーのSynackおよびAella Dataと販売代理店契約を結び、脆弱性検査サービスとセキュリティ監視ツールの販売を行う。
同社は2001年に設立され、全国15カ所で約8000人の登録デバッガーがゲームソフトウェアのテストや検査を実施している。これまで100万件以上のバグを検出し、ソフトウェアメーカーの製品品質の向上を支援してきたという。
エンタープライズ向け事業戦略の概要
同社の代表取締役社長と親会社のハーツユナイテッドグループの代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)を務める玉塚元一氏は、デバックとセキュリティの親和性が高いと説明し、セキュリティ事業を新たな収益源と位置付ける方針を表明。当初はサービスやツールの販売を主体とするが、将来はデバッガー人材をセキュリティ人材としても活用していく考えを明らかにした。
協業するSynackは、脆弱性検査やシステム侵入テストのサービスを、約1000人が参加するクラウドソーシングで提供する企業で、米国政府機関やIntel、Microsoftなどを顧客に持つ。原則としてシステム規模を問わず一律5万ドルで検査を行う事業モデルが特徴という。Aella Dataは、一般的なNetflowに加え、レイヤ4~7も加えた独自の「AellaFlow」を用い、人工知能(AI)技術を併用してネットワーク上における脅威が疑われる挙動の詳細な監視や解析を行うツール「Aella Starlight」を手がける。
セキュリティ事業の展開イメージ
以前に国内企業でのセキュリティサービス事業の創設や外資系ITベンダーの日本法人幹部を歴任したセキュリティ事業部長の岡田卓也氏は、脆弱性検査市場について、ニーズの高まりに対し、高度なスキルを持つ限られた人員での対応に追われる状況が20年近く続いていると解説。セキュリティ監視についても、サイバー攻撃などの脅威の拡大に対して近年はセキュリティ監視センター(SOC)事業に参入する企業が増えているが、やはり限られた専門人材による手作業での対応に追われている状況にあると話す。
協業先の2社は、こうしたセキュリティサービスを取り巻く課題の解決につながる可能性から選定したといい、脆弱性検査ではSynackが抱える豊富な人員リソースの活用、Aella DataではSOC運用の自動化につながる技術に期待しているとした。初年度の事業目標については、Synackサービスの再販で100社の契約獲得、Aella Dataのツール販売で100社の受注を見込んでいるという。
ハーツユナイテッドグループ 代表取締役社長CEO兼デジタルハーツ代表取締役社長の玉塚元一氏
玉塚氏は2017年5月に現職に就任。以前はファーストリテイリングやロッテリア、ローソンなどの経営トップを歴任し、ITやサイバーセキュリティの事業は“異分野”となるが、「経営者の本質はビジョンや実行力を示し、周囲を巻き込むことにある。デジタルハーツでは、これまでの実績を生かし、『アジアナンバーワンの総合テスト企業』を目指す」と経営方針を説明した。
加えて、「どんな業種でも経営者は顧客に提供する商品のセキュリティ確保に責任を持つことがもはや常識だ。今後のIoTの普及でソフトウェアの安全や信頼が必須になるが、一方で人材が不足し、セキュリティホールの見逃しが大きなリスクになる。当社はそれらに対応できるユニークな立場だ」と述べ、新規事業による同社の業績拡大に自信を示した。
同社の2017年3月期業績は、デバックなどのゲーム関連事業が約135億円、ITサポートなどの企業向け事業が同19億円だったが、玉塚氏は2022年3月期をめどに、ゲーム関連事業を250億円規模、今回のセキュリティを含めた企業向け事業を200億円規模に引き上げ、海外事業目標の50億円を加えた売上高500億円の達成を経営目標を掲げている。