これからのGDPRの対応で踏み外してはいけない“基本”とは何か

國谷武史 (編集部)

2018-06-11 06:00

 欧州連合(EU)を含む欧州経済地域(EEA)で5月25日、「一般データ保護規則(GDPR)」が施行された。日本企業もその対象になる可能性があり、対応の検討や作業をこれから本格化されるというところが多いだろう。そこでは、まずGDPRの“考え方”を理解することが重要になる。

 フォーティネットジャパンが6月7日に開催したカンファレンス「Fortinet Security World 2018」では、知的財産権やITを専門とする西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士の岩瀬ひとみ氏と、ANAシステムズ 品質・セキュリティ管理部エグゼクティブマネージャ ANAグループ情報セキュリティセンター ASY-CSIRTの阿部恭一氏が、日本企業がGDPR対応を進める際の注意点などを解説した。

「人権」を意識したリスクマネジメント

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士の岩瀬ひとみ氏
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士の岩瀬ひとみ氏

 GDPRの目的は、EEAの個人に関するデータやプライバシーの保護になる。岩瀬氏は、この取り組みが単に規制当局の要求事項を順守すれば良いといったものではなく、企業としての社会的責任(CSR)を果たし、顧客の信頼に応えるという基本的かつ重要なものだと解説する。

 その理由は、GDPRが欧州で伝統的に築かれてきた文化とも言える「人権」意識を重視している点にあるという。個人に関する情報やプライバシーを保護するための「規制」という点では、日本にも個人情報保護法があるが、GDPRは「人権」という基本的な権利を守ることを強く意識したものであり、「規制」に対する感覚が大きく異なる点に注意すべきだという。

 というのも、欧州の長い歴史では、時の権力者が市民の生命や権利を脅かし、これに対抗する運動が繰り返されてきたことから、「人権」に対する意識は“文化”とも言えるものだとされる。GDPRはデジタル社会においても個人の権利が侵害されないよう、これまで国ごとにまちまちだった人権保護のためのルールを欧州全体のものと共通化し、権利の侵害につながる行為に対して厳しく対応する姿勢を示したものともいえる。

 折しもGDPRの施行直前に、米Facebookにおけるユーザー情報の不適切な利用が大きな問題として取り上げられ、インターネット企業を中心とするビジネスでの安易な個人ビッグデータ利用に批判が集まったが、欧州ではこれを権利侵害として、より厳しく捉える向きにある。

 このためGDPRには、意外かもしれない立場が関わる。一般的には、GDPRの対象になり得る企業と顧客、取引先や業務委託先、規制当局などの範囲にとどまると考えがちだろう。しかし岩瀬氏によれば、人権への意識が強い労働組合や従業員、活動家や団体なども含まれるという。もし欧州の従業員が、「日本の経営側が不当に個人情報やプライバシーを侵害している」と感じれば、労働組合と連携してストライキを起こす可能性があるし、実際にGDPRの施行日には、欧州の活動家団体がプライバシー侵害を理由に、複数の米国企業を提訴する事態が起きた。

 つまり、「人権」への意識を欠いたままGDPRの取り組みを進めてしまうと、単に高額な制裁金などの事態を回避しようと、要件項目を満たすことが目的になり、結果的に企業とそのビジネスの存亡を脅かすリスクをまねきかねない危険性をはらむ。

 GDPRに対応する本質的な意義は、あらゆるステークスホルダーを通じて「人権」を保護することであり、阿部氏も、こうした「人権」に対する意識がGDPRの「精神的な柱」になると指摘。GDPR対応における取り組みとは、企業の存亡に関わるリスクのマネジメントだと、阿部氏は解説している。

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