米警察の現場を支える「音声認識」技術--職務中の安全性向上に活躍

Stephanie Condon 翻訳校正: 編集部

2018-08-05 08:00

 音声認識ツールは、「Alexa」のような音声アシスタントを日常生活に取り入れたり、会議のメモを人間よりも正確に書き写したりといったように、人々の働き方や暮らし方を変えている。警察の世界においても、音声認識を重要情報のメモ取りに用いるなど、警察官や刑事の活動を支えている。生命を脅かすような状況の防止にさえ役立つかもしれない。

 米ZDNetは、Nuance CommunicationsのMark Geremia氏と、マサチューセッツ州マスーアンの警察署でチーフを務めるJoseph Solomon氏に取材。音声認識やクラウドコンピューティングなどの新たなテクノロジによって、警察業務がどのように進化しているのかを聞いた。マスーアン警察署は、ファーストレスポンダー(緊急対応者)に特化したNuanceの音声認識製品「Dragon Law Enforcement」を活用する当局の1つである。

 取材の主な内容は次の通り――。

 警察官への待ち伏せ攻撃を防止:音声認識ツールの最大の利点は安全性である、とSolomon氏は話す。例えば、警察官はパトカーの中でメモを取りながら、周囲を見回すことができる。警察への待ち伏せ攻撃が増加している昨今、これは警察官にとって特に重要であるとSolomon氏は指摘する。実際、警察への待ち伏せ攻撃は2016年に急増し、2017年も依然として懸念が続いている。加えて、警察官がパトカーの中で頭を上げていることが多くなれば、それだけコミュニティーとの関わり合いも深まっていく、とSolomon氏は説明する。

 「彼らは文字通り、全てを観察できるようになる。これは、警察官への待ち伏せ攻撃を防止したり、街中での存在感を維持したりするのに役立つだろう」と同氏は述べ、「周囲に注意を払えなくなるため、警察官には車内で報告書を作成してもらいたくなかったのだ」と語った。

 また、音声認識によって、警察官は業務を迅速化し、より詳細なメモを取れるようになるとSolomon氏は話す。

 音声認識ツールを警察向けにチューニング:Nuanceは、業界別に音声認識ツールを展開している。その理由の1つは、専門分野ごとに使われる用語も大きく異なるからだとGeremia氏は説明する。

 例えば、「下品な言葉の類は、この製品セットで対応した大きなものの1つだ」と同氏は述べた。加えて、Nuanceは各警察署と連携して、よく使われる道路の名前や名字の発音方法を学習した。また、文字起こしで適切な略語が表示さえるようにツールをカスタマイズしている。

 Geremia氏の説明によると、例えば、Nuanceが「“sergeant(巡査部長)”をどのように記述するかと尋ねると、“sergeant”ではなく“Sgt.”とつづることが分かった」という。

 Nuanceはまた、周囲の雑音を取り除く機能が付いた「Nuance PowerMic」も警察署に提供している。「サイレンが鳴り響き、エアコンの風量を強めにしながら、窓が開いたままの車内にいても、(音声認識は)まだ機能するだろう。ただしマイクは必須だ」(Geremia氏)

 新技術の導入とITの更新:「警察官は何よりも変化を嫌う」とSolomon氏は打ち明ける。そのため、新しいテクノロジを検討する際は、試験導入から始める。「ボランティアを募るときにはいつも、“このシステムを望まない人ほど、引き受けてください”と呼び掛けるようにしている」

 「警察官はおしゃべりだ」(同氏)という理由から、音声認識はすんなりと受け入れられた。こうした新しいツールを導入する副次効果として、警察署は署内のITを刷新せざるを得なくなると、Solomon氏は付け加えた。

 「いつの時代も警察署は廃棄同然のレガシーシステムを運用してきた」(Solomon氏)

 クラウドコンピューティングとデータストレージに関するポリシー:マスーアン警察署は、Axonの協力のもと、ボディカメラの映像を全てクラウドに保管している。ちなみに、同社のセキュリティと暗号化技術については、全米犯罪情報センター(NCIC)によって入念に検査されている。この種の録画映像の保管ポリシーに関しては、主に州法によって規定されているとSolomon氏は説明する。特定の記録は、一定期間の保管が義務づけられている。さらに、基本要件よりも厳しい独自の条件を警察署で設定することもある。自動消去のポリシーも用意している。

 「われわれのゴールは、今後18~24カ月の間で、全てのストレージをクラウドに移行することだ。しかし、これを実現するにはお金がかかる。自治体にその財源があるかどうか私には分からない」(Solomon氏)

 音声認識の将来:今後の計画のロードマップについてNuanceと確約していることはないものの、Geremia氏によると、Nuanceはボディカメラの映像などレコーディングデータの活用を支援するソリューションに取り組んでいるという。

 「まだ、とても多くのレコーディングデータがある。われわれはそれらをバラバラにして解析したり、動画を聞き取ってキーワードを抜き出したりできる技術に取り組んでいる」(Geremia氏)

 Solomon氏は、やがてAIベースのシステムが、警察の収集した膨大な量のデータから有益な情報を引き出せるようになると期待している。こうした能力によって、クラウドソーシングの情報が、とりわけ有益な捜査技術になるだろう、とGeremia氏は語った。

 公への説明責任:警察署が利用するテクノロジが変化するのに合わせ、市民を守る法律も変える必要があるだろう、とSolomon氏は話す。ただし、市民に対して説明する責任を持ち続けるには、透明性が極めて重要であると同氏は付け加えた。「人々の周りをこそこそかぎまわってもうまくいかない。公明正大な姿勢を取り、かつ(収集されたデータで)何をするつもりなのかを明らかにしてそれだけを行うようにすれば、全く問題はないと信じている」

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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