富士通研究所と熊本大学は5月10日、加速度センサーやジャイロセンサーなどの時系列データに対して、人工知能(AI)向けの教師データを簡単に作成できる技術を開発したと発表した。
複数動作を含むような長い区間ごとに、その区間における主要な動作と判断された1つのラベルを手動で付与していくだけで、それぞれの動作ごとに適切なラベルが付与された高精度な教師データを自動で作成することが可能となる。この技術は、時系列データの数値の特徴だけから判断を行い、センサーの種類には依存しないため、温度センサーや脈波センサーなどにも適用が可能だ。
例えば、加速度センサーで観測したデータの特徴から、人やモノの動作の意味をAIが判断する機能を開発することで、スマートフォンや各種機器に人や機械の見守りといった高度な機能が搭載できる。しかし、時系列データにAIを適用するには、AIが学習を行うための教師データを作成する必要がある。
時系列データを用いたAIによる見守りの例(出典:富士通)
センサーから得られる時系列データは、それぞれの瞬間での値が数値で記録されているだけなので、「いつ(区間)」「何を(ラベル)」したかを付与してデータに意味づけを行い、AIが学習するための教師データを作成する。例えば、ランニングの際の加速度センサーのデータでは、走っている状態、歩いている状態、止まっている状態などが混在しており、これらのデータをAIに学習させるには,それぞれのデータを区間に切り分けて、「走っている」「歩いている」「止まっている」といったラベルを付与した教師データを作成しなくてはならない。
この教師データの作成は、従来、時系列データを測定している最中にビデオで振るまいを録画しておき、秒単位で変化する数値に対してどの振るまいをしているのか照らし合わせた上で、人手でラベルを付与するのが一般的だった。そのため、大きな負担と時間がかかり、時系列データのAIへの適用が進まず、ラベル付与作業の手間を削減する自動化技術が求められていた。
開発技術の全体像(出典:富士通)
今回開発した技術は、適切な区間抽出と高精度なラベル付与を可能にした。
区間抽出では、時系列データの中で、同じ動作が継続している時の特徴と動作が変化する時の特徴を学習し、時系列データから同じ特徴を持つ動作の時間帯を適切に自動抽出する。またラベル付与では、大雑把なラベルを1つ付与しておき、これらのラベルを予測できるようにディープニューラルネットワークを学習させたあと、この学習済のディープニューラルネットワークを使って時系列データを読み込ませ、結果として出てきた推定ラベルから、時系列データのどの区間が最も予測に寄与したかを計算する。その上で、寄与度が高い時間帯をラベル候補として集計していき、高度な予測が可能な教師データを作成していく。
今回、工場における研磨などの作業を模した動作からなる加速度センサーの時系列データに対して、ラベルを付与する実験を実施したところ、92%の時間帯で正しくラベル付けができた。
富士通研究所と熊本大学では、その結果を受け、人手でラベルを細かく付与したデータを教師データとした時と同等の高精度な結果であることが認められるとし、センサーがとらえた特徴をAIが判断するような機能の開発が進むことが期待できるとしている。
さまざまな分野の時系列データを用いた実証実験を進め、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」の時系列データ向け前処理技術として2019年度中の実用化を目指す。