自然言語処理は黄金時代を迎えつつある--マイクロソフトの研究幹部が語る現状

阿久津良和 2019年05月31日 06時00分

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 日本マイクロソフトは5月30日、人工知能(AI)研究の概要や自然言語処理研究の最新動向に関する報道機関向けの説明会を開催した。Microsoftの研究開発部門Microsoft Research Asia(MSRA)で副所長を務める周明氏が、翻訳技術との関係などについて紹介した。

 周氏は、コンピューター言語/自然言語処理研究学会「Association of Computational Linguistics(ACL)の会長や、中国計算机学会(Chinese Computer Federation:CCF)、中国情報技術委員会委員長、中国情報処理理事学会理事なども務める。同氏が所属するMSRAは2018年11月に20周年を迎え、これまで6000人以上のインターンを育成し、「多くの学生はIT分野の技術リーダーとして大学教授や企業のCTO(最高技術責任者)を務めている」(周氏)という。

Microsoft Research Asia副所長 博士の周明氏
Microsoft Research Asia副所長 博士の周明氏

 大学の博士課程に在学する学生を対象にしたMSRAのインターンプログラムでは、北京に3カ月間滞在し、先端的研究に関与する。年間15~20人を受け入れてきたという。この他にも年間10件前後の共同研究テーマに対して1年間の資金提供を行うCORE共同研究プロジェクトや、次世代を担う研究者となるべき有望な博士課程修了者を支援するフェローシッププログラムなど、基礎研究に対するエコシステムを実施してきた。「NLC(Natural Language Computing:自然言語コンピューティング)」グループに所属し、人間の言語技術を研究分野とする周氏は、機械翻訳の分野において「人間の平均能力に迫りつつある」と説明する。

 世界各国に所在するMicrosoft Researchは異なる研究分野を持っているが、MSRAではナチュラルUI、AI、マルチメディア、ビッグデータ&ナレッジマイニング、クラウド&エッジコンピューティング、コンピューターサイエンスファンデーションの6種類を研究対象としてきた。画像認識や機械言語理解、機械翻訳、光学文字認識分野で突出した結果をさまざまコンクールで打ち出してきた。直近では、2019年4月に国際機械翻訳コンクール「WMT 2019」において、世界中から50以上のチームが参加する機械翻訳競技会で11言語中8言語でのトップを飾っている。

 2006年に開始した機械翻訳の研究開発について周氏は、「2012年と2016年が特異点だった」と振り返った。2013年までMicrosoft Researchの研究統括責任者を務めていたRichard Rashid氏が中国の言語学会で、英語で話したスピーチ内容を英文化し、そのまま中国語に翻訳するデモンストレーションを行ったのが2012年である。2016年はニューラル機械翻訳の性能が飛躍的に向上し、前述した周氏の発言はこのタイミングを指している。

MSRAによる機械翻訳のロードマップ(出典:Microsoft) MSRAによる機械翻訳のロードマップ(出典:Microsoft)
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 だが、言語の壁が完全に取り除かれるのは、しばらく先になりそうだ。周氏は、「全ての言語間の翻訳を実現したい。だが、一部の言語間は“平行する部品”を持たない言語があり、希少な単語もある」と話す。このように英語リソースに対してリッチネスな言語との翻訳を実現するため、リッチな言語へ一度変換するといった複数の機械翻訳手法を用いてきた。さらに、日本語と英語についても「構造が異なる。日本語は『主語+目的語+動詞』だが、英語は『主語+動詞+目的語』だ。日本語は柔軟なため目的語が先にくることもあれば、後に長い修飾子が付くこともある。また、敬語もユニークな存在だし、機能語が多いため、(他言語と比べて)特別な扱いをしなければならない」と分析する。

 比較的相性が良い英語と中国語の翻訳は実用段階に達しており、ビジネス展開も生まれつつある。MSRAは、国際コンテナ輸送などを手掛ける香港のOOCL(Orient Overseas Container Line)と中国のCOSCO SHIPPING Linesの協業に関与し、「AI技術を提供し、彼らのロジックを最適化した」(周氏)。また、教育分野ではグローバルに学習サービスを提供するPearsonとともに、英語学習アプリケーション「Longman Xiaoying」を開発している。このような取り組みを行う理由として周氏は、「彼らのAIプロシージャーに貢献したい。われわれはサードパーティー企業からフィードバックを受け取り、(AI技術の)改善に取り組める」との意図を説明した。

MSRAは日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長の榊原彰氏が率いるマイクロソフト ディベロップメントとも連携する
MSRAは日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長の榊原彰氏が率いるマイクロソフト ディベロップメントとも連携する

 「自然言語処理は黄金時代に進んでいる」と語る周氏は、多様な言語に対して自然言語処理が飛躍的な進歩を遂げれば、開発者や企業が機械翻訳を多用することで多様な革新につながり、「EコマースやIoTやロボット業界に広まっていくだろう。ITと自然言語処理をシームレスに組み合わせることで、ファイナンスや教育、医療業界まで広まれば、人間の人生は豊かになる。国や研究者を問わず、ユーザーに使ってもらえる技術を研究・開発していく」(周氏)と、多くのMicrosoft製品・サービスに用いられる技術開発に寄与していくことを表明した。

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