中国で音声系AI(人工知能)といえば、まず「科大訊飛(iFlyTek)」が有名であり覚えておきたいが、他にも筆者も把握しきれないほどの無数の音声系AIスタートアップ企業がある。その中で悩ましくも面白い迷惑電話系のAIを紹介していきたい。
中国では世界消費者権利デーの3月15日に、中国中央電視台(CCTV)が消費者の権利を侵害しているという企業などを名指しで取り上げるのだが、2019年はスマート営業電話システム(スマート迷惑電話システムともいえる)がトピックの一つとなった。CCTVの報道によれば、迷惑電話は既に人間によるものから自動音声に変わっていて、システムから自動で次々に電話をかけるだけでなく、自動音声応答も本当の人と区別がつかないほどのクオリティーとなっているという。
番組ではスマート営業電話を開発した中科智聯科技、易龍芯科人工智能、智子信息科技などの企業が名指しを受けた。番組の取材に対し、中科智聯科技は「中国全土の6億人の個人情報を保持している」と語り、易龍芯科人工智能は「中国西北地方(シルクロードエリア)のAI営業電話のリーダーシップ企業」と称し、「このシステムにより1年間に40億回を超える電話をかけた」と語っている。電話邦の調査によれば、年間迷惑電話件数では2017年の3億2000万回から2018年には2億1000万回まで減少しているという。40億が正しいのか、2億や3億が正しいのか不明だが、回数だけで見れば2017年よりもマシになってきている。
世界権利者デーでCCTVに指摘されれば動くしかなく、中国移動(China Mobile)、中国聯通(China Unicom)、中国電信(China Telecom)の3大キャリアはブラックリストの強化や迷惑電話対策集中センター設置などの迷惑電話対策を強化した。
中国セキュリティー大手の360が発表したレポート「2018年中国手机安全状況報告」によれば、迷惑電話の数は2018年で総計約450億回受発信しているとしている。1日平均でいえば1億2000万回を数える。これらの数字も他の統計と異なるので眉唾ものだが、この数を基準に考えれば、人口も多いがそれでも10人に1人に1日1回は迷惑電話がかかっている計算になる。かくいう筆者も中国にいる際は迷惑電話を受けることは日常的で驚かない。
ところで外国人の筆者がなぜ迷惑電話と分かるのか、という疑問を持つ人もいるだろう。キャリアやセキュリティー企業や端末メーカーらが、迷惑電話防止システムを用意しているため、営業の迷惑電話がかかってきた場合、だいたいスマートフォン上に迷惑電話と表示されるので分かるのだ。もっとも、以前も営業電話に応答すると、早口でまくしたてるやる気のない営業マンやあからさまな録音された音声の再生が始まるので、IT化が進んでないときでも迷惑営業電話は分かるには分かったのだが。
そうした迷惑電話のフィルタリングを越えてかかってくる、自然な対応になる昨今の音声AIの営業対応については、「AI攻撃にはAIの盾を」といわんばかりのソリューションがある。「十牛科技」という企業の「ii電話秘書」がそうだ。ii電話秘書を利用すると、まずはかかってきた電話番号がブラックリストに入っているかをチェックし、入っていない場合は自動応答音声のAIが電話を受ける。話し手の内容から迷惑営業電話かどうかを判断し、アプリに話した内容を文字起こしして送信してくれるというものだ。
音声AIによる営業電話があれば、受ける電話も音声AIが対応する。人同士はやりとりせず、音声AI同士が会話をするという状況が中国では既にできている。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。