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FinTechの脅威を感じて--欧州14銀行がブロックチェーンで挑む貿易金融の課題

末岡洋子

2019-08-02 07:00

 ブロックチェーン技術を用いれば、中堅中小企業が国際貿易をもっと簡単にできる――。Deutsche Bankなどの欧州系銀行が集まって貿易金融プラットフォーム「we.trade」を構築した。ブロックチェーン技術を利用することで、国境をまたいだ貿易の障壁を低くすることを目指す。既に運用環境に入っており、国境を超えた取引が始まっている。背景にあるのは、「デジタル変革をしなければ、取り残されてしまう」という銀行の危機感だ。

 we.tradeは分散型台帳とスマートコントラクトを活用した貿易金融プラットフォームであり、同基盤を運営するジョイントベンチャーだ。Deutsche Bank、HSBC、Society Generaleなど14の銀行が参加、各行の顧客を対象とする。

 グローバル化に伴って国境の壁が低くなる一方で、2008年のリーマンショック以降に金融の規制は厳しくなった。「銀行は中堅中小企業に融資したくても、高いリスクがあるとできない。だが、世界経済フォーラム(WEF)では“GDP(国内総生産)の成長”が叫ばれ、中堅中小企業をもっと活性化しようという政府からの圧力もある」――。we.tradeのプロジェクトに関わった米IBMのParm Sangha氏(貿易・貿易金融担当グローバルブロックチェーンリーダー兼GBSエグゼクティブパートナー)は、銀行側が抱くジレンマをこう表現した。GDP拡大への貢献が期待される中堅中小企業だが、その7割が複雑な貿易金融サービスを利用できていないと言われている。

 同時に、数年前から始まったFinTechの台頭が、金融業界で無視できない動きとなっていた。Sangha氏によると、当時の銀行や金融サービス企業は「銀行側からイノベーション(技術革新)は起きないという認識があった。しかし、自分たちから攻めなければ、外部から壊される」とFinTechの脅威を感じていたという。銀行は知らない企業同士の中間機関として信頼されており、この立場を利用するという点で「we.tradeは既存の事業を守りつつ、新しい市場で攻めに転じることができる」という気付きがあったという。実際、we.tradeで最高執行責任者(COO)を務めていたDeutsche BankのRoberto Mancone氏は、「この業界はずっとイノベーションがなかった」と認めている。

 Sangha氏は2017年にIBMへ入社し、ブロックチェーンサービスのグローバル戦略を担当した。当時、多数の実証実験(PoC)が実施されていたが、運用環境に進むものは少なかった。その状況を変えようと、Sangha氏のチームはブロックチェーン技術の応用方法についてDeutsche Bankと話し合いを重ねていた。それと同じ時期に、ベルギーの大手金融機関であるKBCが中堅中小企業向けにブロックチェーンの取り組みを開始した。せっかくなら「この2つを組み合わせてみてはどうか」となり、we.tradeの前身が出来上がった。その後、欧州の銀行が次々と参加し、2017年に12の銀行でジョイントベンチャーを立ち上げた。参加銀行の数は現在14に増えている。

 we.tradeは、国際貿易における信用リスク管理の問題をブロックチェーン技術で解決する。貿易では輸出先の取引相手が支払わないなどのリスクがあるが、企業はそれを回避するために銀行などに高額の手数料を支払う。we.tradeでは、参加銀行の顧客のみを対象とすることで、コンソーシアム型のクローズドなブロックチェーンネットワークを形成し、信用問題をクリアする。また、本人認証のプロセスを統一するなどプロセスも簡素化する。

 ブロックチェーンの技術基盤には、Linux Foundationが管理する「Hyperledger Fabric」をベースとした「IBM Blockchain Platform」を活用。パブリッククラウドの「IBM Cloud」で稼働する。ブロックチェーンにデータを書き込む際は、タイムスタンプ情報と固有のデジタル署名が付与される。分散型台帳とスマートコントラクトの2つの機能を有する。分散型台帳を使うことで、ブロックチェーンネットワークの参加者全員が関連情報を参照でき、特定の企業がデータを一元管理することはない。スマートコントラクトについては、片方が契約書通りに実行し、それをブロックチェーンへ書き込むことで、合意した契約書の記録に基づいて契約通りに支払いプロセスが自動実行される仕組みになっている。

 当初は全く別の技術を検討していたが、IBMのグローバルネットワークや同社のブロックチェーン技術を高く評価したという。

 we.tradeは本番稼働に入っており、2018年7月に初の商用取引が完了したことを報告した。5日間で10社が4つの銀行を経由して取引を実行したという。2019年5月にはNordea Bank、Societe Generaleの両銀行が全ての顧客向けにサービスを開始するなど、門戸を拡大している。

 欧州から外に出る動きもあり、2018年末には香港の金融管理局が主導となった貿易ブロックチェーン基盤「eTradeConnect」と提携した。「他のサービスネットワークと相互接続する“ネットワークのネットワーク”ができる。サービス共有により、顧客に提供できる選択肢が増える」とSangha氏は語る。IBMとしては金融サービスだけではなく、サプライチェーンの可視化やデジタル文書の管理においてもブロックチェーンの活用が考えられるとしている。

(取材協力:日本IBM)

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