デジタルトランスフォーメーションとは何か--エリック松永教授が語る本質論

聞き手:ZDNet Japan編集部 2019年08月28日 06時00分

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 多くの日本企業が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む。テクノロジーで何かをしようというが、そこには何か違和感を覚える。プロミュージシャンやエンジニア、コンサルタントと異色のキャリアを経て、現在は青山学院大学 地球社会共生学部 教授、アバナード デジタル最高顧問を務める松永 エリック・匡史氏に、DXやイノベーションの本質を聞いた。

--そもそもDXとは何でしょうか? 人工知能(AI)を使えば、DXなのでしょうか。デジタリゼーション(デジタル化)とDXが混じっていたり、最新技術を使えばDXだと言ったりする人もいますね。

 「DXが何か?」は、最も大事な部分です。議論をする場合でも、ここがずれていると全く成立しません。昨今は「デジタル」というキーワードがいろいろな面で混同して使われてしまい、お互いに話していることが違っているケースも多いのです。例えば「テクノロジー」という視点でも、インフラ、インターネット、ソフトウェアなどが混同して使われています。

松永 エリック・匡史氏。青山学院大学 地球社会共生学部 教授、アバナード株式会社 デジタル最高顧問。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。イノベーションをリードするデジタルコンサルティングの草分けであり、バークリー音楽大学出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストとしても活躍。コンサルタントとして、アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイト トーマツ コンサルティング メディアセクターアジア統括パートナー(執行役員)、PwCコンサルティング合同会社 デジタルサービス日本統括パートナーとしてデジタル事業の立ち上げ、エクスペリエンスセンターのコンセプトデザインからリード。近書は「外資系トップコンサルタントが教える”英文履歴書完全マニュアル”」
松永 エリック・匡史氏。青山学院大学 地球社会共生学部 教授、アバナード株式会社 デジタル最高顧問。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。イノベーションをリードするデジタルコンサルティングの草分けであり、バークリー音楽大学出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストとしても活躍。コンサルタントとして、アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイト トーマツ コンサルティング メディアセクターアジア統括パートナー(執行役員)、PwCコンサルティング合同会社 デジタルサービス日本統括パートナーとしてデジタル事業の立ち上げ、エクスペリエンスセンターのコンセプトデザインからリード。近書は「外資系トップコンサルタントが教える”英文履歴書完全マニュアル”」

 私は、デジタルを語る時いつも「Digital is not technology」という言葉から始めています。「デジタルはテクノロジーと同義語ではない」ということです。もともと「デジタル」という言葉の定義は「非連続性」を意味しています。連続性がないことをデジタルと言います。波形で言えばデジタルに対するアナログの「波形」は波のようなイメージですが、デジタルは階段のように“カクカク”していますよね。非連続性をテクノロジーの非連続的な発展と考えると、その真意はイノベーションなんです。発想も同じ。非連続的な発想はイノベーションなのです。つまりデジタルは一言で言えばイノベーションなんです。

 DXについて私が解釈したのは「思考のデジタル化」、発想の奇抜性です。米国のCDO Clubでは、「CDO(Chief Digital Officer)とは何か?」という議論が必ず出てきます。CDO Clubのキュレーターを務めるDavid Mathison氏と話した時に、彼は「デジタルを象徴するのが人物ならSean Parker(実業家)であり、企業ならMTVだ」と述べていました。それに対して私は「イノベーションという意味だね」と答えました。

 Parker氏は、P2PのNapsterを起業したことで有名ですが、NapsterがP2Pという最先端のテクノロジー企業だったから有名になったわけではありません。購入し所有するのではなくコミュニティーで共有するという、それまでの音楽の聴き方を大きく変えたからなんですね。Parker氏は「みんなで共有できたらすごいね」という発想を取り入れたわけです。最終的には裁判沙汰になりましたが、彼の行動は音楽業界を揺るがしました。だいたいの場合、非連続の変化に制度は対応しきれないのです。

 一方、MTVも音楽の聴き方を変えました。それまでの音楽は、“音”を聴いていたわけですが、MTVは映像を交えることで、音楽を“目で見る”ようにしたのです。Michael Jacksonの「Thriller」のプロモーションビデオ(PV)を見れば分かるように、音楽がビジュアル化していきました。またダイバーシティーという観点でも、Culture ClubのBoy GeorgeがファッショナブルなPVでカッコいいと言われることによってLGBTの認知という視点でも社会に大きな変化を与えています。

 Mathison氏のいう例から分かるのは、「デジタル=イノベーション」であるということです。ただ、NapsterではP2P、MTVではエフェクトなどの映像技術が重要なファクターですが、テクノロジーを起点に考えてはいけません。

 「P2P技術をどうすればいいか?」という発想では、Napsterのようなサービスは出てきません。「音楽をどうやって楽しめればいいかな、みんなで聞けたら最高だよね」と発想した時、「P2Pを使えばいいじゃないか」というのが順番なのです。最近の例ならNetflixです。同社も「データ分析をしてどうしようか」という考えからビジネスを始めたわけではなく、「みんなに面白いものを見せたい」という発想が起点になっていますね。しかし、多くの企業では、その順番が逆になっています。「AIを使ってどうしよう?」から考えていては、イノベーションを起こせません。

 もう一つ大事なのは、「非連続性を意図した発想のデジタル化」です。既にデータがあり、実績もあり、“それが正しい”という前提で動く大企業のやり方が通用しなくなってきました。「他社が斬新な発想をした施策をしているから、うちでもやってみよう」という方法です。

 しかし、自らの感覚に優れた「ミレニアム経営者」は全く違います。WeWorkなら「かっこいいオフィス空間を丸ごと場所から作ろう!」、Airbnbなら「宿泊施設に拘らず、ニーズがあれば、あそこに泊まってしまおう!」という発想から来ています。直感で動く彼らには、そもそも“連続性(なにかの発展型のような)”がありません。長い伝統の大手のホテル業界や不動産業界が一生懸命に考えても、先入観として制度や価値観、過去のしがらみといったものがありますから、必ず“アナログな波形”になります。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)もそうですが、急に出てきた彼らは自分の発想が起点にあり、その展開は自ずとデジタルになります。

 コンピューター会社であっても、発想ではアナログ的な過去の常識にとらわれてますから、デジタル的な行動が絶対にできません。例えば、Appleは「コンピューターを人に触れさせたい」というコンセプトがベースにあり、「競合に勝つ」という発想ではありません。通常の会社なら、まず競合分析から入り、自社がどこまでできているかと考えます。

 私は、日本企業が最近よく言う「2025年の崖」というような発想をすぐにでもやめるべきだと思います。デジタルは非連続性だと言いましたが、日本企業にはそれがないのです。株主などのステークホルダーの価値観や株価のみが基準であり、「何パーセント成長したのか」「カイゼンしたのか」といった発想にとらわれていると、デジタル発想の企業がグローバルから急に出てきて戦った時、今の競合も含めて業界自体が全滅してしまうということもあり得るのです。今までは「“デジタルによる破壊”でも業界上位の数社は残る」ということが前提にされていましたが、その常識すら壊される可能性があります。

 このことは、既に海外では起きています。そこに、なぜ日本人がいかないのかが不思議ですね。むしろ日本人は、おもてなしの気持ちを持ったり、お客さんを向いたりということをして、イノベーションを起こしてきたはずです。しかし、いつの間にか米国の経営思想やMBAを持つコンサルタントの影響を受けて、「カイゼンすれば成長する」とか、バランスシートや損益計算書だけを見て現場を知らないような人間が戦略を作るようになりました。商売の本質からずれてしまい、日本人らしくない方向に行ってしまいました。それを戻すべきかもしれません。

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