本連載では電子契約の基本的な概念や仕組み、法律的な側面、メリットやデメリットについて解説してきました。今回は、企業間取引、不動産取引、金融取引においての電子契約の導入事例を紹介します。
書類業務が減少、本来の業務に注力
総合人材サービス企業のパーソルホールディングス(港区、連結従業員数4万5434人)では、人材紹介サービス事業に取り入れています。採用の確定後、取引先企業とサービスの利用規約、人材採用決定の確認書、契約書などを取り交わしますが、このやり取りを紙から電子契約に切り替えたのです。
導入後、印紙代や郵送代などのコスト削減、業務効率化、ワークフロー電子化によるコンプライアンス強化など、さまざまなメリットがありました。特に業務を効率化し、本業に注力できることを評価しています。
紙文書によるやり取りの場合、印刷して封筒に入れて郵送、到着確認、取引先企業内での承認フロー、返送、内容確認と、契約完了までに間接的な事務処理が多く発生します。電子契約によってこれらの作業が減少し、本当にやるべき仕事に集中できる時間が増え、現場の担当者の意識や時間配分が変わったことが、導入の成果ととらえているそうです。
なお、効果は社内だけにとどまりません。契約プロセスを電子化したことで、取引先もワンクリックで契約書に署名できるようになり、取引先の業務も効率化できます。結果、契約に関わる顧客体験を刷新し、顧客満足度向上につながりました。
賃貸契約更新の作業ミスを排除
不動産情報サイト「アットホーム」に加盟する、賃貸物件の仲介業を担うジェイエーアメニティーハウス(神奈川県平塚市、連結従業員数212人)では、賃貸物件の契約更新に導入しました。
理由はリスク評価の結果です。電子契約を導入するにあたって、システム運用、実業務のオペレーション、法律など、さまざまな側面からリスクを検証した結果、すでに契約を行っている信頼関係のある顧客との契約更新処理でのスタートが適していると判断したのです。
電子契約にあたっては、契約者のメールアドレスが必要です。契約時にメールアドレスを登録していない場合が多いことから、次のような流れで電子契約に誘導することになりました。
契約更新を電子化したことで、業務が大幅に効率化しました。紙の契約書の場合、契約者に書類を送付するときに、記載部分に付箋でメモ書きをしたり、押印部分に丸印をしたりするなど、ミスを防ぐために個別の処理が必要でした。それでも、記入漏れ、ミス、押印漏れが多く発生していました。記入ミスがあれば、新しい契約書を作成して再送することも少なくありません。
電子契約の場合は、入力フォームのポップアップメッセージで入力ヒントを表示したり、必須項目が未入力の場合は次のステップに進めないようにしたりなど電子的な制御が可能です。これにより、やり直しの処理が減り契約更新処理が大幅に効率化したのです。
Adobe Signの管理画面では、契約書類のステータスをパソコン画面で管理できるようになり、紙の書類の保管や探し出す手間が省けた(出典:アドビ システムズ)