以前に比べてハードルが低くなったため、自社で人工知能(AI)を開発するケースが増えている。AI開発でカギとなるのは「データ」だ。そしてデータを適切に収集・作成するためにはAI人材が不可欠となる。データの課題とは何か、そして課題を解決していくAI人材とは。アイデミー 代表取締役CEO(最高経営責任者)の石川聡彦氏とライオンブリッジジャパン AI事業部長のCedric Wagrez(セドリック・ヴァグレ)氏が対談した。
AIの民主化でAI人材の「育成」が急務に
Wagrez氏:ライオンブリッジは2007年にAI事業を展開し始め、2019年には日本で「Lionbridge AI」をローンチしました。依頼を受けたプロジェクト内容に合わせて、Lionbridgeに登録している世界中の約100万人のワーカーが、データ収集・作成、アノテーション、AIモデルの評価などを行うサービスです。事業を展開する中で数年前から感じているのが「AIの民主化」です。AI開発のハードルが下がり、より多くの企業が取り組むようになったと思うのですが、石川さんはどう見ていますか。
石川氏:最近ではAIも含めたDX(デジタル変革)が基軸となって、企業の競争優位の本質が変わってきていますね。アイデミーでは製造業の企業を支援することが多いのですが、ハードウェアメーカーでもソフトウェアを作り込んでいかないと良い製品が生まれないという認識にシフトしています。その代表例がAppleの「iPhone」であり、最近だとTeslaの電気自動車です。そうなってくるとやはり社内にAIの専門性がある人やリテラシーがある人がいないと良いものづくりができないということで、AI人材の育成に取り組む企業が多いのです。
Wagrez氏:特に日本の場合はAI人材が不足しており採用が難しくなっています。だからこそ、今いる人を育てるということが非常に重要であり、アイデミーのサービスに注目しています。
石川氏:当社が提供している「Aidemy Business」のコンセプトは「AIシステムの内製化支援」です。AI人材の育成を「Aidemy Business Cloud」というeラーニングサービスで支援することに加え、「modeloy(モデロイ)」というプラットフォームを提供しています。modeloyは、機械学習モデルを作成した後に発生するIoT連携を含む保守・管理システムやAIに付随して必要となる管理アプリケーションなどを提供し、ソフトウェアエンジニアリングの工数を下げることを目的としています。
必要なデータがそろっているかは必ずしも重要ではない
Wagrez氏:弊社がAI事業に乗り出した2007年頃はまだルールベースのAIでしたが、2012年頃にはディープラーニング(深層学習)技術が登場しました。ディープラーニングではデータがあればあるほど性能が向上するので、データ作成に投資する企業も増えています。AIを開発する上で、データに関する課題としてはどのようなものがあるのでしょうか。
石川氏:「データは21世紀の石油」と言われる通り、企業でもデータの重要性は十分に認識をしています。そのせいか「手元のデータを作って何かできないか」という視点でプロジェクトを立ち上げてしまうことがよくあります。データを起点に考えるのは悪いことではないですが、大抵はうまくいきません。データありきでビジネスインパクトの視点がなおざりになってしまうからです。
Wagrez氏:問題を明確にせずにAIを開発しようとすることを、私は「Solution looking for a problem(課題なき解決策)」という言い方をしますが、石川さんの言うように改善すべきKPI(重要業績評価指標)を明確にして、どのような方法で改善すべきか計画を立てることは非常に重要です。その先に必要なのがデータであり、その問題を解決するためにどのようなデータを収集・作成すべきかを考える必要がありますね。
石川氏:Wagrezさんの「Solution looking for a problem」という言葉にとても共感したので、これから私もその表現を使おうと思っています(笑)。まさにその通りで、やはり重要なのは、課題を解決した際のビジネスインパクトであり、現時点で必要なデータがそろっていることは必ずしも重要ではありません。年間10億円の費用削減効果があれば、1億円かけてデータを収集するという選択肢も生まれます。自社で完結するのが難しい場合には、データ収集・アノテーションを行うLionbridge AIのような外部のサービスに委託するという手法もあります。