世界的に遅れているAI開発--原因はデータ不足?

Charly Walther (Gengo) 2018年11月05日 07時00分

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 人工知能(AI)開発の加速ぶりについては絶えず報道されているため、私たちの日常生活が5年後、10年後、20年後、どのような影響があるか不安に思う人も多いのではないでしょうか。

 しかし、実のところ今からそれほど心配する必要はなさそうです。現時点でのAI開発レベルは、世界的に見ても科学者たちが当初期待していたよりも低いというのが実情です。これはAI開発にいくつか問題点や阻害要因があるためです。特に2つの問題が挙げられます。

  • 才能の不足:世界中のAI技術者の数はたったの30万人なのに、何百万人もの技術者が必要とされています。単純に、AIの背後にある複雑な技術を真に理解して発展させられる人間が不足しているのです。世界的にAIが注目され、この分野を目指す人が増えてきていますが、それでも人材が足りない状況が今後も続くと考えられます。
  • AI学習データの不足:高品質なアルゴリズムは高品質なデータからのみ生まれます。しかし、多くのAI開発企業が高品質で偏りのないデータを大量に収集して整理するのを困難だという結果が出ています。

 今回は、2つ目の問題についてより詳しく解説したいと思います。

 AI学習データはアルゴリズムを構築してタスクを実行するように教えるのに用いられます。研究者たちは学習データを何度も繰り返し使用してアルゴリズムの予測を微調整し、その成功率を高めていきます。アルゴリズムを効率的に学習させるのに、研究者には大量のデータが必要となりますが、それだけでは十分とは言えず、データが高品質であることも要求されます。

 AI研究者はアルゴリズムに学習させる前に、データが整理されていることを確認しなければなりません。重複したデータや誤ったデータ、無関係なデータを使用すると、アルゴリズムのパターン認識能力が阻害されたり、偏った結果が生成されたりしてしまいます。

 ある単語を誤って動詞ではなく名詞としてタグ付けしてしまうといった小さなミスでも、重大な影響が生じかねません。このため、AI研究者は慎重になり、AIデータを使用する前に何度もデータをチェックする必要があります。

 大抵のAI学習データは「入力情報」に対応する「ラベル付き情報」のペアで構成されます。入力情報に関連するタグが付いており、アルゴリズムが正確に予測するのを助けます。例えば、感情分析(注)の場合、AI学習データセットにはフレーズやセンテンス形式のテキストと、そのテキストがポジティブなのかネガティブなのか、それともニュートラルなのかを示すラベルが含まれます。画像認識では画像がインプットとなり、ラベルはその画像で何が描写されているのかを示します。

注:感情分析とは、対象の文章がポジティブ/ネガティブ/ニュートラルなのか、ニュアンスを文脈や単語から分析すること。

AI学習データ不足の4大要因

 では、何がAI学習データの不足の原因となっているのでしょうか?

  • どのようなデータが必要なのかを企業が理解していない:多くの企業はAIや機械学習が商業目的でどれだけ有効に利用できるかが分かっておらず、もちろんデータを収集して将来の機械学習モデルを教育することなど考えてもいません。このような企業は機械学習を重要で注力すべきものではなく、課外活動のように見なしています。機械学習をビジネスに活用することに意欲的な企業でも、経験が浅いためにどのようなアルゴリズムを使用すればいいのか(クラシックかニューラルネットワークかなど)を理解していないことが多いのです。
  • 企業が必要なデータ量やデータ収集にかかる時間を低く見積もっている:「ライバルが機械学習を使った製品を発売」などの事態に直面した企業が、土壇場になって機械学習の実行を決めるようなことがあります。このような状況ではデータ収集が乱雑になってしまい、望むような結果とは程遠いアウトプットになってしまう場合もあります。例えば、数カ月間でデータを収集して、高品質な不正検出アルゴリズムを教育する必要があるとします。ほんの2~3週間で集めたデータで強引にアルゴリズムを構築したとしても、実際のアプリケーションでは使用できない不十分なモデルが出来上がってしまうでしょう。
  • データの収集やラベル付けが難しい:スパイキングニューラルネットワークのようなアルゴリズムには、構築するのが難しく時間のかかる特殊なデータセットが必要となる場合があります。また、画像のラベル付けのような作業は地道で、膨大な人の手による作業が要求されます。中小企業の場合、投資効果を十分に確信できなければ、このようなアルゴリズムに投資するのはためらわれるかもしれません。
  • 企業の保守的なデータ管理:AIを意欲的に開発する企業は、プライバシーに関する懸念や、ライバル企業に負けることを恐れて、他の企業や研究者に自社で取得しているデータを共有することを避ける傾向にあります。しかしAI開発で重要なのは、高品質な学習済のアルゴリズムを生成することです。データを企業間で共有し合うことで、自社の開発の品質向上につなげられる可能性が高まるかもしれません。

企業規模別データ収集対策

 AI開発には膨大な量のデータが必要で、人間の力でデータを収集・編集をしなければなりません。要はデータ周りの作業に取り組める人材をどのように囲えるかが重要です。GoogleやUberのような、従業員を大勢雇う資金のある大企業では十分なデータを入手するのに必要な人材を集めることができるでしょう。

 一方、大手と比べて資金力に劣る中小、ベンチャー企業だと単純ですぐに使える形でデータを保管することが重要です。会社がログを乱雑にデータ保管していると、従業員はそのデータを扱うのに苦戦する羽目になり、余計な前処理を実施しなければならなくなってしまうのです。

Charly Walther
Gengo プロダクト&グロース担当バイスプレジデント
ベルリン出身。イエール大学卒業。サンフランシスコでKPCB Product Fellow、Uber(Uber Advanced Technologies Group)のプロダクトマネージャーを経て2017年にGengoへ参画。現在はGengoAIの開発に従事。

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