多くの大手IT企業は、不平等を解消するために、黒人やその他の有色人種の雇用を増やすと宣言している。しかし、それを実際に実現するために、リモートワークがインクルージョンを推進する取り組みの重要な部分となるかもしれない。
2020年は、リモートワークと人種差別問題の解消という2つのトレンドが1つに合わさり、ようやくIT企業が抱えている人種的多様性の問題が前に進む年となるかもしれない。この2つのトレンドは密接に関連している。
人種差別に対する抗議活動や警察の暴力行為など、米国を長年むしばんできた問題が数多く表面化する中、企業は労働力の多様性拡大と不平等の解消に取り組んでいる。一方で、多くの企業が新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務への移行を強いられたが、その結果リモートワークでも生産性は維持できることが証明された。これまではリモートワークは事業継続のための措置だと見なされてきたが、今後はもっと大きな視点から考える必要があるだろう。
多様性の実現とリモートワークは相性が良さそうだ。米国でIT企業の従業員は、生活費の高い地域に住む必要がある場合が多い。社会経済階層を上昇しようとする貧困層や労働階級の人々が、生活にお金がかかる地域に引っ越すのは、ある程度の経済的な支援なしにはほぼ不可能かもしれない。こうした地域(ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、シアトル、最近はオースティンもそうなりつつある)に引っ越すことは、中産階級にとっても難しい。
IT企業が集積している生活費が高い地域に従業員が引っ越す必要のある現在の仕組みは、企業の多様性を高めようとする取り組みの妨げになっている。企業は人材が豊富なところに行く必要がある。
次のようなサイクルを想像してみてほしい。
- フィラデルフィア出身の向上心が強い労働階級の大学生が、Googleへの就職を目指して検討を始める。
- 選択肢に挙がったのはニューヨークかサンフランシスコのベイエリアだった。
- 両親はすでに学生ローンの一部を負担しており、ギリギリの生活をしている。
- 電卓をたたいて、自分の経済状況を把握すると、引っ越しをする経済的な余裕はないことに気づく。現実を見れば、引っ越しは経済的に不可能だと悟る。就職希望者は地元にとどまる。
GoogleをAppleやAmazon、Facebook、Microsoftに変えても、同じことが起こる。それなのに、これらの企業は、なぜ人種や経済階層の多様性を改善できないのかと不思議に思っているのだ。就職希望者の家庭が経済的に裕福でない限り、生活費が高すぎる地域に引っ越す選択肢を選ぶことは難しいかもしれない。
リモートワークをうまく活用しなければ、大手IT企業が裕福な家庭の就職希望者だけを雇用するサイクルから抜け出すことはできないだろう。有名進学校の卒業生しか乗れないメリーゴーラウンドだ。