「マルチテナントデータセンター」とは--運用コストを抑えてデータを管理するための鍵

興梠貴治 (コーニングインターナショナル)

2020-07-03 07:00

 モノのインターネット(IoT)とそれに関連するテクノロジーへの要求の拡大によって高まるデータセンターへの需要に対応するため、多くのデータセンターはアップグレードの必要性に迫られています。2021年までに世界中で447億9000万のIoTデバイスが使用されるようになると予想される中、「キャプチャー(収集)」「プロセス(処理)」「ストア(蓄積)」されるデータは指数関数的に増えていきます。IDC Japanによると、国内IoT市場は2024年まで年平均12.1%で成長し、市場規模は12兆6000億円強に達すると予想されています。

 しかしながら、自前でデータセンターを建設し、そこでデータを保存・管理するのに必要なコストやリソースは計り知れません。そして、ネットワークのレイテンシー(遅延)を低減し、システムのダウンタイムを減らし、変化する法規制に対応しながら、データセンターを最適化していくことは非常に困難なタスクです。

図1:国内IoT市場支出額および前年比成長予測、2019~2024年(出典:IDC Japan)
図1:国内IoT市場支出額および前年比成長予測、2019~2024年(出典:IDC Japan)

 膨大なデータを収集し、リアルタイムなアクセスを実現しつつもコストを抑える。この難題に企業はどう取り組むべきでしょうか。組織に効果的なデータセンター戦略とは何でしょうか。多くの企業の場合、その答えは「マルチテナントデータセンター」(MTDC)にあります。

 マルチテナントデータセンター(コロケーションデータセンターとも呼ばれます)は、企業へデータをホストするためのスペースおよびサービス事業者に接続するためのスペースとネットワーク機器を最小限のコストで提供する施設です。一般的なサーバーラックから専用のモジュールまでさまざまなニーズに対応していて、スペースと設備を必要に応じて使用できるので、多くの企業にとって自前でデータセンターを所有するよりもコストを抑制できるメリットがあります。

データセンターをアウトソーシングする必要性

 データセンターの運用をアウトソーシング(外部委託)するメリットには「コスト」「アップタイム」「セキュリティ」の3つの要素があります。

 自前のデータセンターを管理するIT部門は、そのデータセンターが最適なレベルで動作していることを保証するために、設備のメンテナンスとアップグレードに時間を割くことを余儀なくされます。また、ダウンタイムやデータ損失への対処や、需要のサージ(急増)に迅速に対応するための余力を維持しておく必要があります。

 データセンターの運用をアウトソーシングすることで、メンテナンスやアップグレード、需要のサージへの対応を大幅に削減でき、IT部門のサポート能力を大幅に向上させることができます。

 自前のデータセンターを社内に維持するためにかかるコストはIT部門ばかりでなく、幅広い組織に影響を与えます。社内におけるデータストレージの構築と維持、電源管理や修理対応、セキュリティの確保、さらにはデータセンターの物理的な設置スペースは、ビジネスに幅広く影響を与えるものなのです。

 これらのファシリティーマネジメントはITエンジニアにとって専門外で、コア業務であるソフトウェア、ハードウェア、ネットワーキング、アプリケーションなどの運用ノウハウが生かせない非効率な状況を生み出します。IT部門が常にデータセンターの維持管理に追われている状況では、企業の重要なビジネス戦略に集中できるITリソースが不足しがちになります。

 企業はデータセンターの運用をMTDCに外注化することにより、成長のために重要なビジネスイニシアチブへ資本とリソースを再配置できるようになり、その結果、IT部門はコア業務に集中できるようになります。

アウトソーシングの課題と利点

 データアクセスの信頼性は非常に重要な要素です。MTDCは全ての顧客のシステムに対して、サービスレベル契約(SLA)に応じ、データアクセスを保証しなければなりませんが、十分な帯域を提供することは容易なことではありません。

 この課題を克服した例を世界各地で見つけることができます。例えば、オーストラリアのPier DCはティア3認定のMTDCの一つです。ティア3認定を取得するには、設備の維持や修理、交換に伴うダウンタイムをなくすために複数の通信経路を確保する必要があります。

 この要求に対応するため、Pier DCはオール光の光ファイバーインフラストラクチャーを導入しました。高密度のプリコン光ソリューション(成端光ソリューション)は、顧客のクロスコネクトにおけるパッシブな光配線だけでなく、統合制御システムをもサポートするソリューションになっています。このソリューションにより、Pier DCはデータセンターのサービス期間中に起こり得る需要のサージ、キャパシティーへの要求、設備の移動や追加などの変更に関わりなく、顧客がデータとサービスにいつでもアクセスできる保証を提供できるようになりました。

 ますます多くの企業がデータストレージとサービスのアウトソーシングを考え始めています。実際、MTDCに対するアウトソーシングの支出額は2022年までに2倍になり、現在の315億ドルから600億ドルにまで増加すると予想されています。データの爆発的な増加を見越して、全てのデータセンターが将来予想されるデータ容量への要求に迅速に備えることが不可欠になっています。

 一方、多くの企業にとってMTDCへのアウトソーシングは以下のような理由から重要です。

  • 低密度、高密度アプリケーションへの迅速なアクセス
  • 厳格なSLAの保証の活用
  • より高度なテクノロジーとアプリケーションへの迅速なアクセス
  • 将来を見据えた最大限の柔軟性の確保
  • 総所有コスト(TCO)の削減

 MTDCは顧客に迅速な接続環境を提供し、ビジネスやエンタープライズ、クラウドのさまざまなニーズに対応するサービスを提供することに重点を置いています。このため、MTDCでは少なくとも3年ごとにハードウェアとテクノロジーの更新を行うのが一般的です。データセンターのサービス提供期間は10年程度を想定しています。こうしたハードウェアやテクノロジーの更新は、MTDCを利用する企業にとって設備投資、時間、リソースの節約要因となるのです。

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