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三越伊勢丹がコロナ禍でデジタルサービスをスピード開発できた理由

阿久津良和

2021-03-25 07:00

 IM Digital Lab、三越伊勢丹システム・ソリューションズ、グロースエクスパートナーズの3社は、Retoolのローコード開発ツール「Retool」を活用して「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を開発。2020年11月25日に一般提供を開始している。

 コロナ禍における顧客接点の創出手段として開発された同アプリは、チャットや動画を使ったオンライン接客、三越伊勢丹各店の店頭商品購入といった消費者サービスを提供する。三越伊勢丹ホールディングス(HD)の一員であるIM Digital Labは導入決定、内製開発、運用、同じく三越伊勢丹HD子会社の三越伊勢丹システム・ソリューションズは内製開発およびインフラ管理、Retoolのエンタープライズソリューションパートナーでもあるグロースエクスパートナーズも開発を担当した。

「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」
「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」

 コロナ禍を背景にした2020年4月の非常事態宣言は国民に外出自粛を求め、飲食業のみならず小売業にも大きな影響を与えたことは改めて述べるまでもない。大手小売業である三越伊勢丹は同アプリの開発以前からデジタル化に取り組んでいた。

 「2017年4月に杉江(俊彦氏。当時は三越伊勢丹HD 代表取締役社長執行役員。現三越伊勢丹HD 取締役兼三越伊勢丹取締役会長)が社長に就任し、デジタル化を推進した背景がある。2020年6月に『三越伊勢丹オンラインストア』『三越伊勢丹アプリ』を刷新したが、以前のEC(電子商取引)サイトは三越と伊勢丹で扱う商材が異なり、お客さまも使いにくい状態が続いていた。そこでOMO(オンラインとオフラインの併合)を実現する『三越伊勢丹のシームレスサービス』に取り組んだ」(三越伊勢丹 MD統括部 デジタル推進グループ シームレス推進部長 升森一宏氏)という。

 しかし、コロナ禍が始まり早急な対応を求められた同社は、緊急事態宣言が明けすぐにLINE WorksやZoomでオンライン接客を試みたところ手応えを実感。これまで温めていたアイデアと現場の考えを交えて、今回のアプリ開発プロジェクト(PJ)を開始した。

 2020年4月に開始したPJはワークショップ開催を経て、同年7月に開発をスタート。約3カ月後の同年10月には内部リリースに至り、翌月の11月25日にローンチした。開発の主体となったIM Digital Labは「3カ月程度でローンチしたいという強い思い」(同社取締役〈技術担当〉鈴木雄介氏)から、店舗スタッフなどが利用する管理画面構築に、ウェブベースでアプリケーションを構築するRetoolを採用。国内では認知度の低い同ツールを採用した理由は「Retoolは業務画面開発に特化している。企業のシステムは表とボタン、フォームがあればいいという割り切りがわれわれの需要に合致した。過去にもローコード開発基盤を使ってきたが、『よりよいもの』を丹念に探していた」(鈴木氏)と説明する。

三越伊勢丹 MD統括部 デジタル推進グループ シームレス推進部長 升森一宏氏(左)とIM Digital Lab 取締役(技術担当) 鈴木雄介氏
三越伊勢丹 MD統括部 デジタル推進グループ シームレス推進部長 升森一宏氏(左)とIM Digital Lab 取締役(技術担当) 鈴木雄介氏

 サービスはAmazon Web Services(AWS)のコンテナー向けサーバーレスコンピューティングエンジンである「AWS Fargate」上で稼働しており、Retoolも同様だ。採用理由について鈴木氏は「自社のAWS環境に展開できるローコード開発基盤が必要だった。クラウド型ローコード開発基盤の多くはデータをクラウドに送り込む必要があるため、データベースを直接参照できるセルフホスト型を選定した。もう1つはDevOpsの実現。開発チームがインフラ構築とサービス運用を担うことで、開発スピードの向上と効率化が実現できる。一部のローコード開発基盤はコンテナーに対応していないものの、Retoolは最初からAWS Fargateをサポート対象に加えていた」と語る。

 アプリは開発者が設定コードをGitリビジョン管理システムの「BitBucket」の開発ブランチにプッシュすると、別のインスタンスで稼働する開発環境に展開され、動作検証を行う。問題がないようであれば本番ブランチに設定コードをプッシュすることで、本番環境に展開される。これにより開発・本番環境の切り分けを実現。Retool自身が「Gitのブランチ戦略(異なる作業を並行化する仕組み)を利用できるのはうれしい誤算」だったと鈴木氏は語る。

アプリケーションの開発・運用環境
アプリケーションの開発・運用環境

 Retoolの効果について升森氏も「別のウオーターフォール型PJは開発案件をクリアするまで数カ月を要しているが、(アプリを)3カ月程度で開発できたことに驚きを感じている。また、現場の希望も早ければ2週間、遅くても2カ月程度で反映するサイクルが実現できており、常にそのスピードに驚いている」と実感を述べた。

 開発アプリは毎週のようにバージョンアップを重ねているが、具体的には「近日提供を開始する予定の1つに、お客さまとのチャット内容を別のショップに転送する機能がある。お客さまを別のショップに引き継ぐ際にチャット内容を転送し、販売員間の情報漏れを防いでお客さまの不安を払拭する」(升森氏)機能は1カ月程度で実装できる予定だ。過去にはクリアランスセール開催時に顧客へチャット対応の可否を伝える機能を3週間で実装している。

 また、顧客情報をメモとして残す機能も初回リリース以降に実装した機能の1つ。「店舗によって必要な顧客情報が異なるため、(Retoolの機能で)数週間程度で開発した。現在取り組んでいるのは検索条件の見直し。当初、(アプリに)対応するショップ数は14ショップだったが、現在は40ショップを超える。店舗によって必要な顧客情報も管理する顧客数も大きく異なるため、プロダクトの成長に合わせたアジャイル開発に努めている」(鈴木氏)

 接触型である店舗の対面接客とオンライン接客の相違について、升森氏は「十分対応できている。接客はお客さまの要望やもてなし方が重要で基本部分は変わらない。ただ、商品の重量やサイズをオンライン接客でお伝えするのは難しい。またお客さまの反応など、リアルで感じられるその場の空気感を敏感に察知するのも難しい。例えば、婦人服の試着時は複数の商品を提示してお客さまの表情から好みを察して次の商品を提案するが、オンライン接客では難しい。多数の商品を提案してもお客さまを悩ませてしまう。現在は知見を蓄積している状態だ」と語った。

 本アプリは購入意欲を持った消費者がアプローチしてくれている可能性が高く、「お客さま自らが購買動機を書いてくださる状態」(升森氏)だ。蓄積情報を今後の品ぞろえに生かしつつ、在庫情報の確認といったシンプルなチャットは人工知能(AI)が対応する仕組みにも取り組む。また、実店舗や取組先、他社との連携も視野に入れている。

 「今後は全国の各店舗への拡大も視野に入れる。三越のれんなら日本橋店、銀座店と、伊勢丹のれんなら新宿店となど、各地域店舗と都心の基幹3店舗が連携した取り組みを検討していく。また、取り組み先の拠点など三越伊勢丹以外の外部拠点を活用した拡大も今春から検討を始めていく」(升森氏)

 鈴木氏も「他のPJでもRetoolを使いたいという声が社内から上がり、現在計画中だ。会社自身も『小さく始めて大きく育てる』流れにあるため、Retoolの活用を広めていきたい」と展望を語った。

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