富士通とNTT、次世代通信「6G」に向けて戦略的業務提携

大河原克行

2021-04-26 17:54

 富士通とNTTは4月26日、次世代通信インフラとなる「6G(Beyond 5G:第6世代通信)」時代に向けて戦略的業務提携を行うと発表した。

 NTTは、次世代ネットワークおよび情報処理基盤の構想である「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」を提唱しており、それを実現する上でのキーテクノロジーに光電融合技術を位置付けている。今回の提携を通じて光電融合技術の実現を加速し、通信機器だけでなくコンピューティング分野にも活用することで、Beyond 5G時代に向けた通信技術の革新を目指す考えだ。

 また富士通は、IOWN構想や6G時代の技術開発を目的として、「IOWN/6Gプラットフォーム開発室」を4月1日に新設するなど、次世代通信インフラに関する研究開発を本格化している。今回の提携を通じて得た成果をソリューションサービスやプラットフォームに活用し、製造業や流通、小売、医療などの幅広い顧客に向けて提案していくという。

NTT 代表取締役社長の澤田純氏(左)と、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏
NTT 代表取締役社長の澤田純氏(左)と、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

 この日記者会見したNTTの澤田純社長は、「今回の提携はNTTの持つ光技術や無線技術などと運用ノウハウ、富士通の持つ世界一のコンピューティング技術やさまざまなテクノロジーをインテグレーションする強みを組み合わせ、共同研究とその成果を活用して、グローバルでオープンなイノベーションを推進し、低エネルギーで高効率なデジタル社会の実現を目指す」とした。

 富士通の時田隆仁社長は、「今後はあらゆる分野、現場でDX(デジタル変革)が進み、異なる業種間やシステム間で流通するデータの価値がますます高まる。膨大なデータを究極のリアルタイムに処理するには、社会インフラとしてのネットワークとコンピューティングの飛躍的な進化が不可欠。非連続のブレイクスルーを実現しグローバルにインパクトを与える先端テクノロジーを追求するには、NTTと強固な研究開発体制を敷くことが最適解と考え提携に至った。成果を未来型デジタル社会の実現に貢献したい」と述べた。

 提携内容は、光電融合製造技術の確立になる「デバイスの革新」、通信技術のオープン化の推進による「通信技術の革新」、低消費電力型の高性能コンピューティングの実現による「コンピューティングの革新」の3点になる。

 「デバイスの革新」では、NTTの先端デバイス技術を生かしたハードウェア製品を開発、製造するNTTエレクトロニクス(NEL)が半導体実装技術を持つ富士通アドバンストテクノロジ(FATEC)の66.6%の株式を取得し、社名を「NTTエレクトロニクスクロステクノロジ」に変更し、6月1日から、NTTグループ傘下の新体制で事業を開始する。

光電融合技術によるデバイスの進化
光電融合技術によるデバイスの進化

 「NELもFATECも信頼できるエンジニア、ほかにはないコアテクノロジーを強みにして時代に先行する製品、サービスをタイムリーに提供してきた。NELの論理設計と製造技術、FATECの実装設計と試作技術を統合させ、光電融合製造技術を確立する」(NTTの澤田氏)

 NTTエレクトロニクスクロステクノロジでは、デジタルコヒーレント光通信用LSIおよびシリコンフォトニクス技術によるCOSA(Coherent Optical Sub Assembly)を一体化し、光電融合技術を用いた小型・省電力の高性能光通信用デバイスを、2022年度内に提供を開始する。また、Beyond 5G時代に向け、超高速で小型・低コストの光電融合デバイスや、基地局に搭載するためのアーキテクチャーを両社で検討し、富士通の基地局をはじめグローバルに幅広く提供していく。2024年には、通信用/コンピューター用のLSIの入出力装置として光・電子コパッケージを実装、2025年にはチップ間の光伝送化、2030年以降はチップ内のコア間光通信およびチップ内の光信号処理を実現するという。

 「通信技術の革新」では、光電融合技術を適用した「ネットワークプラットフォーム」による多様なサービスの実現を目指す。富士通の時田氏は、「NTTが持つマルメベンダーネットワークの運用ノウハウ、富士通が持つ通信ネットワーク機器の開発、製造の強みを掛け合わせ、オープンな環境でわれわれならではの価値創出を目指す」と語る。

 ネットワークプラットフォームでは、多くのベンダーやさまざまなサービス事業者が多様なサービスを提供。ネットワーク機能の仮想化やオープン化、光電融合技術の適用にも取り組むとした。これにより、通信機器市場における特定ベンダーに依存する垂直統合モデルからの脱却や、ホワイトボックスや汎用ソフトウェアを、マルチベンダーで対応するオープン化を促進できるという。

光電融合技術の基地局への適用イメージ
光電融合技術の基地局への適用イメージ

 それに向けて、まず光電融合技術を無線基地局に適用する。仮想化された無線基地局(vRAN)の導入拡大での課題になるパフォーマンス向上への対策や、無線アクセスネットワークを最適化する制御技術の開発などにも取り組むという。「5G無線基地局向けに超高速で、小型・省電力の光電融合デバイスを搭載するためのアーテキクチャーを開発するが、6G時代に向けても決定的といえる重要な取り組み。スマートフォンやタブレットに5Gの電波を届けるには、国内だけで28万台の無線基地局を設置する必要があり、膨大な電力を消費する。高速でリアルタイムに高度なサービスのインフラを動かすための消費電力を最小限に抑えることが社会全体の課題になる。このテクノロジー変革を成功させ、富士通以外の基地局以外にもグローバルに広く提供したい」(富士通の時田氏)

 「コンピューティングの革新」では、低消費電力型高性能コンピューティングの「ディスアグリゲーテッドコンピューティング」基盤の実現に向けた共同研究開発に取り組む。「オープンなネットワークプラットフォームをさらに拡張するもの。NTTの光電融合技術や『富岳』などに活用された富士通の世界一のコンピューティング技術を組み合わせ、膨大なデータ処理を必要とする未来に向け低消費電力、高性能、柔軟で拡張可能なコンピューティング基盤の技術開発に挑戦する」(富士通の時田氏)とした。

ディスアグリゲーテッドコンピューティングの概要
ディスアグリゲーテッドコンピューティングの概要

 ディスアグリゲーテッドコンピューティングでは、コンピューティング機器を構成するデバイス、CPUやGPU、メモリー、ストレージなどを光通信でつなぎ、さまざまなリソースを目的に応じて動的に利用できる新たなアーキテクチャーを目指すという。時田氏は、「ディスアグリゲーテッドコンピューティングの世界を実現し、幅広い用途に広め、低エネルギーで高効率なICTシステムの実現を進める」と述べ、澤田氏は、「高速化や省電力化に課題がある従来のコンピューティングアーキテクチャーを抜本的に見直し、低消費電力で、高性能なコンピューティング技術の開発を進め、これをあらゆるICTリソースに実装する」とし、2025年開催予定の大阪万博で披露、その後商用化を図ると説明した。

 NTTは、6G時代を見据えて2020年夏にNECと資本業務提携しているが、澤田氏は、「NECとは包括的な協業で宇宙や海底ケーブル、セキュリティなどの分野に落としていく。富士通との連携は、コンピューティングを変えていく、通信機器を変えていく、半導体を一緒に作るというように目的が明確で、その上で包括的な連携へと拡大していく」と述べ、NTT、NEC、富士通による3社連携のスコープについては将来の話としつつ、「可能ならあり得る話」とした。また、富士通との今回の協業に関しては、「通信機械メーカーと組むのが狙いではなく、技術力とイノベーション力がある企業との連携という点が大切である」と述べた。

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