既に起こりつつある変革
中小企業などでは、未だに手書きのファクスでの注文があったり、手書きの伝票を使って経理処理したりしているところがあります。「デジタル社会なんか先の話」と思っている経営者もいますが、社会は急激に変わってきています。既に起こりつつある変革について少し紹介します。
(1)翻訳
人間は曖昧なところがあるため、言語についてルール化することは難しく、コンピューターで正確に翻訳することは難しいとされてきました。
しかし、コンピューターの処理能力の向上と機械学習が可能になったことにより、人間以上に精度の高い翻訳が可能になりつつあります。人間が英和大辞典を全て暗記することはできませんが、コンピューターは一字一句間違えることなく記憶できます。また、慣用的表現も機械学習によってだいぶ人間に近い翻訳ができるようになってきています。将来は、コンピューターが同時通訳するようになるでしょう。
(2)医学
医学については、生身の人間の生死に関わることなので、医師しか判断することはできないとされてきました。しかし、人間が見たり、覚えたりする数には限りがあります。コンピューターであれば数万件の症例を全て記憶して判断できます。既に人工知能(AI)による診断を導入している病院もあり、乳がんの診断などでは、「AIの方が人間の専門医より偽陽性、偽陰性の判定が少なく、正確な結果を出した」との成果が、権威のある科学誌である「Nature」に論文として発表されています。将来的には、AI診断を先に行い、医師がそれを確認するという流れになるのかもしれません。
(3)裁判
裁判では、裁判官が法的判断を下しますが、裁判官は、過去の判例をすべて記憶しているわけではありません。しかし、コンピューターであれば過去の全ての判例を記憶することが可能です。AIの進化によって、事案を分析する能力が高まれば、人間の裁判官より正確に、しかも、感情に左右されずに判断できます。
人の人生がかかった判断なので、人が機械に判断されてよいのかという問題はありますが、医学と同様、AIで判断された結果を裁判官が確認するという時代が来るかもしれません。
DXにどう対応すればよいのか
以上のとおり、社会は思っている以上に早い速度でデジタル化しています。中小企業の経営者からは、「ITは苦手でよくわからない」や「外部に発注するとお金がかかるので手を付けらない」という声がよく聞かれます。しかし、デジタル社会は待ったなしでやって来るので、「ITが苦手」では済まされません。デジタル社会に適合しなければ、企業の継続は難しくなります。
経営者としては、「DXなくして生き残れない」ということを強く意識し、どのような変革をすべきなのかを逃げずに考えなければなりません。社会には、いろいろな年代、性別、人種、さまざまな職業があります。DXを行うためには、多様な意見を聞き、社会の動きを敏感にキャッチすることが重要です。経営者が方向性を示せば、後は、ITが得意な社員や外部のプロに頼むことで解決することができます。
ただ、DXを実現するためには、社内環境をデジタルに対応したものにしておく必要があります。いくらDXのビジョンを示してもアナログ処理をしていては、DXは実現しないからです。業務の変革の前に、ITを活用して業務を可視化し、自動化することが求められます。そのためには、データベースなどを有効活用して、各社員がリアルタイムに情報にアクセスできるようにしておくことが必要です。
新型コロナウイルス感染症は、ワクチンの接種もはじまり、今後、収束していくかもしれません。しかし、不安要素はまだあります。また、強毒型の新型インフルエンザやその他の未知のウイルスの脅威は、いつ来てもおかしくありません。デジタル社会への適応とウイルスの脅威に勝つためにもDXについて真剣に考えてみてはいかがでしょうか。
(第2回は6月上旬にて掲載予定)
- 伊達 諒(だて りょう)
- 日本銀行で金融機関の経営分析、厚生労働省で政策の調査業務、内閣府でSEを経て、フリーライターとなる。MBA、CFP、一級FP技能士の資格も有しており、金融、経済、IT、経営、会計、税、行政と幅広い分野での執筆活動をしている。これまで、大手メディアを中心に、500本以上の記事を執筆している。