DX(デジタルトランスフォーメーション)はあらゆる企業にビジネスやマネジメントの変革を迫っている。それはITベンダーもユーザー企業も同じだ。ならば、従来のITベンダーとそのユーザー会の在り方もDXの進展と共に変わっていくのではないか。こんな問題意識のもと、SAPジャパンと同社のユーザー会の活動をモデルケースとして考察してみたい。
書籍「SAP S/4HANAがもたらす企業のビジネス変革」を共同制作
SAPジャパンと同社のユーザー会である「ジャパンSAPユーザーグループ」(以下、JSUG)は先頃、「SAP S/4HANAがもたらす企業のビジネス変革」と題した書籍を共同で制作し発行したと発表した。SAPの最新ERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)を活用した日本企業14社のDX事例を紹介したものである(図1)。
図1:SAPジャパンとJSUGが共同制作した書籍「SAP S/4HANAがもたらす企業のビジネス変革」の概要(出典:SAPジャパン)
発表に際してオンラインで開いた記者説明会には、書籍の企画・制作に携わったSAPアジアパシフィック&ジャパン シニアバイスプレジデントの神沢正氏、JSUG会長でトラスコ中山 取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長の数見篤氏、東京化成工業 執行役員 Global IT Headの幸村祥生氏が登壇。説明の概要については発表資料をご覧いただくとして、本稿ではSAPジャパンとJSUGの活動をモデルケースとして「DX時代におけるITベンダーのユーザー会の在り方」について考えてみたい(写真1)。
写真1:左から、JSUG会長でトラスコ中山 取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長の数見篤氏、東京化成工業 執行役員 Global IT Headの幸村祥生氏、SAPアジアパシフィック&ジャパン シニアバイスプレジデントの神沢正氏
その前に、神沢氏が会見でS/4HANAの最新動向について説明したので紹介しておこう。
「日本企業が競争力を強化していくために、SAPのERPはこれまで提供してきた経営管理や業務の標準化、グローバル対応の機能と共に、これからはAI(人工知能)やIoT、アナリティクスといったデジタル技術をどんどん活用できるようにしていく。そうした姿勢で提供しているS/4HANAは、現在グローバルで1万7000社以上のお客さまに採用されており、そのうち1万100社以上が稼働済みだ」
さらに、同氏はこう続けた。
「1972年にR/2の名で登場したSAPのERPは、2013年に独自のデータベースであるHANAを装備し、2015年にS/4HANAを投入した。それから6年を経た今年、S/4HANAをベースに企業のDXを支援する『RISE with SAP』を発表した。今後はこのRISE with SAPを前面に押し出して、お客さまのDXに貢献していきたい」(図2)
図2:SAPのERPの変遷と現状(出典:SAPジャパン)
RISE with SAPについては、2021年6月10日掲載の本連載記事「SAPが提供開始したDX支援サービス『RISE with SAP』の“立ち上がり”はどうか」で解説しているのでご覧いただきたい。また、このところSAPはS/4HANAの実績に触れてこなかった印象があるが、今回は稼働実績が1万社を超えたのを機に明らかにしたようだ。