インテルは3月31日、GPU製品「インテルArc(アーク)」に関する記者説明会を開催した。Arcは同社が2021年8月に発表し、米国時間2022年3月30日に詳細を明らかにしている。
第1弾となる「インテルArc A-シリーズ モバイル・グラフィックス」はノートPC向け独立型GPU(discrete GPU:dGPU)として、「インテルArc 3グラフィックス」を採用。上位版に当たる「インテルArc 5グラフィックス」「インテルArc 7グラフィックス」採用dGPUも2022年初夏に提供する。デスクトップやワークステーション向け製品も2022年後半に提供する予定だ。
長年、統合型GPU(integrated GPU:iGPU)に注力してきたインテルがdGPUを提供する理由として、同社執行役員常務 第二技術本部本部長 土岐英秋氏は「GPUの利用場面が増えている。プラットフォームレベルの開発にも伸び代があり、利用者に有意義な可能性を届けられる」と解説した。
同社技術本部 シニア・プラットフォーム・アーキテクチャー・エンジニア 太田仁彦氏は「dGPU市場が熟成し、ビジネスの観点から見てもわれわれが参加するよいタイミング。もう一つは弊社内でも(dGPU開発に)長年議論を重ねてきた。今回の発表で長年温めてきた思いをようやく開花できた」と説明している。
ビジネス用途でも注目すべきGPU
従来は「インテルIris(イリス)」シリーズなど主たるGPU機能をCPUに組み込んできたが、高まるGPU需要にあわせてインテルは、単独の半導体となるdGPUとしてArcを用意した。本来はPCゲーマーや映像動画制作者向けのGPUだが、ビジネス用途でも注目すべき点は多い。
例えば、核となる「インテルXe HPGマイクロアーキテクチャー」は、前モデルとなる「インテルXe LPマイクロアーキテクチャー」と比べて、消費電力あたり最大1.5倍の性能を向上させたと説明。リアルタイムレイトレーシングなどに用いる「インテルXe Matrix Extensions(XMX) AIエンジン」も、以前のGPUと比較するとAI推論演算は約16倍の能力を備えるという。
また、同エンジンを利用する機能「Xe Super Sampling(XeSS)」は深層学習を利用して、高解像度画像のアップスケーリング(映像変換)を実現。ただし、XeSS機能が利用できるのは2022年夏以降となる。
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Arcは「Xe Media Engine」と呼ばれるハードウェア動画支援機能を備えているが、今回の発表会では動画圧縮コーデック「AV1(AOMedia Video 1)」に焦点を当てて解説された。
Arcは次世代の動画形式として注目を集めているAV1形式のエンコード/デコードをハードウェアアクセラレーションし、AVI形式の課題だったエンコード時間を大幅に短縮。H.264形式と比較して最大50%、H.265形式に対しては約30%の効率向上が見込めるとしている。すでに「Adobe Premiere Pro」や「DaVinci Resolve」などの動画編集アプリケーションがArcに対応し、社内で映像作成を担う担当者を支援する。
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映像をディスプレイに出力する「Xe Display Engine」はHDMI 2.0b、DisplayPort 1.4a/2.0に対応し、8K60Hz×2もしくは4K120Hz×4の構成が可能。ArcはノートPC用dGPUだが、ノートPCを外部ディスプレイにつなぐ場面が増えているため、高い性能を備えるのは望ましい。
また、V-Sync(垂直同期)設定を無効にすると、画面の上半分と下半分がずれるテアリングが発生するものの、「境界線付近をぼかすことでチラチラを軽減する」(太田氏)「Smooth Sync」機能も備えた。
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Arc搭載ノートPCが、CPUのiGPUを同時利用するために、「インテルDeep Link」と呼ばれる技術も用意した。動的な電力共有で必要な演算性能を提供する「Dynamic Power Share」は、CPUやGPUの性能が最大30%向上すると説明。プラットフォーム全体のメディアエンジンを結合して高速化する「Hyper Encode」は、Iris Xeと比較時の動画変換が最大60%高速化するという。利用可能なコンピューティングエンジンでクリエイティブな作業を支援する「Hyper Compute」についても、24%の性能向上が見込めるとインテルは説明した。
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(左から)インテル 執行役員常務 第二技術本部本部長 土岐英秋氏、同社技術本部 シニア・プラットフォーム・アーキテクチャー・エンジニア 太田仁彦氏