ECから始めるDX

第1回:なぜ今、ECを見直すのか

今井徹、長川将之 (アドビ)

2022-11-01 07:00

 電子商取引(EC)が登場して四半世紀ほどがたった。コロナ禍でECへの需要が高まり、単なる通販サービスではなく、企業の新たな付加価値提供のプラットフォームとしてその存在は日に日に大きくなっている。そのため、ECを従来のように切り離したチャネルとせずに基幹システムや顧客関係管理(CRM)などバックエンドとの連携を含めて刷新する必要に迫られているのだ。そんなECを取り巻く現状を見ていこう。

転換期を迎えるECサイト

 ECが今、転換期を迎えている。ここでいう転換期とは、ECのビジネスプロセスや仕組みを刷新する時期という意味だ。黎明期のECは、通信販売の延長として、また店舗を持つことなく消費者に直接商品を売る場として、書籍やCD、日用品を中心に発展してきた。そんなECも、小売店やチェーン店が店舗以外の新たなチャネルとして立ち上げたり、日用品だけでなくPCや家電といった高額商品、ファッションなども参入したりした。近年では自動車など高額商材の見積もり、購入が可能なサービスも誕生している。

 ECの扱う領域が広がってくるに連れ、需要も増えてくる。特に2020年以降はコロナ禍となり、ECの重要性は一層高まった。Adobe Analyticsを使った「Adobe Digital Price Index」(アドビデジタル物価指数)によると、米国における2022年5月の消費者のオンライン消費額は788億ドルで、前月より10億ドル以上の増加となっている。さらに消費者の93%が「オンラインで買い物をする」と回答しており、ネットショッピングの利用は高止まりしている状態だ。

 これは日本も同様で、総務省が発表している「令和3年 情報通信白書」によると、コロナ禍が始まった2020年3月以降でネットショッピングの利用世帯が急増、その後も2人以上の世帯の約半数以上が引き続きネットショッピングを利用する状態が続いている。

 ECの需要増はBtoC(個人市場)分野だけではない。BtoB(法人市場)分野においてもEC、つまりウェブチャネルの重要性は増している。やはりコロナ禍で対面営業が控えられるなか、ウェブで情報を収集し、購入できる商材であればそのまま購入するケースが増えた。

 米Adobeの調査によると、BtoB企業の85%が「デジタルコマースを含めた新しいセールスモデルにシフト」と回答し、89%が「デジタルの新しいセールスモデルが新たなスタンダードとなる」と見ている。

図2.Adobe SUMMIT調査資料から「BtoB企業のデジタルシフト状況」
図2.Adobe SUMMIT調査資料から「BtoB企業のデジタルシフト状況」

 日本の場合は電子データ交換(EDI)からの乗り換え需要でECに力を入れたり、ASEAN(東南アジア諸国連合)の新興国では電話やファクスからECに切り替えたりという需要があり、ECの立ち上げ・刷新は大きな経営課題となっている。

 こうしてECの存在感が高まるに従い、大きな課題が3つ生じてきた。

ECを取り巻く3つの課題とは

 3つの課題の1つは、基幹システムとの連携だ。特に黎明期ECは企業のウェブサイトと同等に扱われ、情報システム部門が関与しない“ウェブ担当”が運用に当たっていたケースが多い。そのためサプライチェーン(供給網)全体にわたる在庫管理や販売管理などと連携していないシステムがある。売り上げが10億円以上のBtoC系ECサイトであれば、既にバックエンドとの連携は進めているが、それだけの売り上げがあれば複雑さは一層増すので、よりシンプルかつオープンな仕組みに刷新することが求められている。

 もう1つはウェブサイトのリブランディングだ。2000年代に入り、ブランディング目的でウェブサイトを開設したメーカーや製造業の多くは、商品情報を届ける「ブランドサイト」と、商品を購入できる「ECサイト」の2つを立ち上げた。ところが製品の仕様など詳細なことはブランドサイトで把握できても、ECへの動線がないため、購入するにはさらにECサイトにアクセスしなくてはならない。ここでまず顧客体験が大きく損なわれてしまう。こうした事態を解消し、顧客体験を向上するためにECを含めたウェブサイトのリブランディングを行う動きが増えている。

 最後の課題は、ECを発端にビジネスプロセス再構築が求められている点だ。かつてのECは、店舗を持たない事業者の販売の場であり、店舗を持つ事業者にとってのチャネルの1つに過ぎなかった。しかしコロナ禍を経て日常生活のデジタル化が進む中、ECに求められる機能も複雑さを増している。引いてはそれがデジタルトランスフォーメーション(DX)につながっているのが現状だ。

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