IT専門の調査やコンサルティングを手掛けるITRは11月26日、企業の経営者や最高情報責任者(CIO)を対象にしたコンファレンス「IT Trend 2024」を開催。「AIネイティブカンパニーへの挑戦」をテーマに15の講演やセッションを実施し、AIをはじめとする革新的テクノロジーを活用した新たな企業像を示した(会長/エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏の講演記事はこちら )。
基調講演に登壇した同社プリンシパル・アナリストの舘野真人氏は「生成AIといかに向き合うか〜リーダーに求められるマインドチェンジ〜」をテーマに、生成AIを取り巻く最新動向とリーダーが備えるべきマインドセットについて話した。
ITR プリンシパル・アナリストの舘野真人氏
過去30年に登場した衝撃を受けたテクノロジーで1位になったのは
冒頭、ITRの設立30周年に当たり実施した「過去30年に登場した企業ITに関わるテクノロジーのうち特に衝撃をうけたもの」というアンケート結果に触れ、「インターネットなどが上位になるだろうと思っていたが、トップは生成AIだった。過去に登場したインターネット、スマートフォンに匹敵するような衝撃を皆さん受けている」と生成AIがいかに大きなインパクトを業界に与えているかについてコメントした。
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しかし「最近の動向を見ると、大規模言語モデル(LLM)の学習スピードや、学習で使う良質なデータの枯渇、実際導入してみたらコストがかかるなど、ややネガティブな見方をする意見も出てきている。2025年に向けてはこういった情報がむしろ増えてくるのではないかと思っている」と分析する。
舘野氏によると、これは生成AIが「ショック期」に入ってきたためとのこと。今まではいわゆる「ハネムーン期」で、どんなものでも面白がられるフェーズだったが、その高揚感が失われ、不安などがどんどん増してくる期間に入る。これはどんなテクノロジーにおいても生じる現象のため、舘野氏は「ネガティブなものであってもきちんとご自身で取捨選択し、消化し、プラスマイナスをきちんと精査していただきたい。ショック期の問題は必ず技術で克服してきた。一時的なネガティブな情報に踊らされず、技術の進歩の過程をしっかりと見ていただきたい」とした。
企業ITの視点から考える生成AIの意義
大きなインパクトを持って受け入れられている生成AIだが、舘野氏が企業ITの視点から考える意義は(1)非構造化データを本格的に扱える、(2)大規模な事前学習が済んでいる、(3)動的なコンテキストに適応できる――の3つ。
(1)については、構造化データに非構造化データの情報を加えることで、企業が持つ「真の強み」が分かり、多角的な分析が可能になる。非構造化データとは、企業内データの約8割を占めるとも言われており、営業日報やメール、チャットのやり取りなどがそれに当たる。
舘野氏は「構造化データでもある程度の予測、分析はできるが、それに非構造化データを加えたデータ活用が当たり前になることは間違いないだろう。今までほとんど管理してこなかった非構造化データを本気で管理していくことが必要になり、それができる会社とできない会社に明確に分かれてくるだろう」と重要性を説いた。
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(2)の大規模な事前学習が済んでいるについては、学習済みのデータを汎用(はんよう)的に使えるモデルとして提供している生成AIは、これまでのビジネスにはなかった大きな変化と舘野氏は受け止める。この恩恵として、開発期間の短縮などがあり、検索拡張生成(RAG)やファインチューニングなども事前学習が済んでいるからこそ成り立つ仕組みだとする。
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(3)の動的なコンテキストに適応できるは、パーソナライズ化ができたり、特定の条件下だけで作業をさせたりといった高度な自動化が可能になる。これにより、状況の変化に応じた分析ができ、それに基づいた意思決定への支援も可能になるという。
3つの意義を挙げた上で、舘野氏は課題についても言及した。「非構造化データは組織レベルで十分に管理されておらず、機密情報やプライバシーに触れる可能性もある。事前学習に関しては、バイアスがかかっているため、注意が必要になる。特定の業種や企業独自のニーズに反映していない、適用していない場合も当然ある。コンテキストの適応については、毎回同じような質問をしているつもりでも、毎回答えが異なるなど、一貫性が損なわれやすい。少数意見や重要な要素を見落とすこともある」とした。
ビジネスに浸透してきた生成AIだが、実際に使う上でリーダーに求められるスキルとマインドセットとは何か。舘野氏は「AI技術の学び方は水泳に似ている。座学などではなく、自らプールに入り、水を体験し、体を動かして初めて泳げるようになる。AIも、その世界に飛び込み、自らが能動的に体験しなければ理解は進まない」と説いた。