海外コメンタリー

AIの透明性を訴えるE・マスク氏、「Grok」モデルのオープンソース化には消極的?

Tiernan Ray (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2025-02-26 07:00

 Elon Musk氏のxAIは、ソーシャルメディアプラットフォーム「X」(旧「Twitter」)を所有し、人工知能(AI)モデルを開発するスタートアップだ。同社が米国時間2月17日に発表した最新のAIモデル「Grok 3」は、推論やその他のタスクにおいてOpenAIの最高のAIモデルに挑む。

 Grok 3の発表を前に、Musk氏は先々週、OpenAIを管理する非営利団体OpenAI, Inc.に敵対的買収提案を行った。Musk氏はこの買収提案について声明を発表し、「OpenAIはかつてのようにオープンソースで安全を重視する善の力に立ち返る時が来た」と述べた。

 この最新の動きは、Musk氏がOpenAIと同社の最高経営責任者(CEO)であるSam Altman氏(創設時にはMusk氏のパートナーだった)に対して仕掛けた攻撃の一環だ。Musk氏は、AIを公共の利益のために維持管理するという創設時の崇高なビジョンを放棄したとして、OpenAIとAltman氏を繰り返し非難しており、法廷でも争っている。

 OpenAIの取締役会はMusk氏の提案を拒否した。

 ここで疑問が生じる。Elon Musk氏は、AI開発の透明性と安全性の維持を憂いているなら、なぜxAIが今すぐGrokの全モデルを永久にオープンソース化すると約束しないのだろうか。

 xAIがこれまでに公開したオープンソースバージョンのGrokは、最初のバージョンである「Grok 1」だけだ(「GitHub」と「HuggingFace」のxAIのリポジトリーから入手可能)。Grok 1以来、「Grok 1.5」「Grok 2」、そして今回のGrok 3がリリースされてきたが、現在のところGrok 1以外のモデルはオープンソースモデルとしてリリースされていない。

 研究者やプログラマーは、「オープンソースAIモデル」という用語について議論している。歴史的に、「オープンソース」とは、プログラムのソースコードの公開を意味する言葉だった。

 Grok 1やMetaのAIモデル「Llama」などのオープンソースモデルの場合、ソースコードは公開されない。各社が公開するのは、モデルの「パラメーター」、すなわち「重み」だけだ。

 重みにアクセスできれば多くのものを再構築できるため、AI分野は進んでオープンソースの定義を歪めようとしている。だが、この用法に異を唱える人がいることも知っておいてほしい。

 筆者はxAIにコメントを求めたほか、XのMusk氏宛のポストで、xAIの全モデルのオープンソース化を約束しない理由を聞いたが、本稿執筆時点で回答は得られていない。

 最初のモデルGrok 1は、リリースが2023年11月で、オープンソース化は2024年3月と、4カ月後だった。早くも同じ月にGrok 1.5がリリースされ、続いて8月にGrok 2が、そして今回Grok 3が登場した。したがって、Grok 1と同じペースでオープンソース化を進めるつもりがあったなら、Grok 1.5とGrok 2をオープンソース化する時間は十分にあったということだ。

 もちろん、企業はオープンソースモデルを公開しつつ、他のモデルは非公開しておくというバランスを保つことができる。コミュニティーと世界に成果を還元する一方で、貴重な知的財産を機密扱いにすることは可能だ。

 人類のためにAIの透明性を懸念していると公言したMusk氏から、確約はおろか漠然とした原則の説明さえないのは奇妙に思える。

 Musk氏はOpenAIに敵対的買収提案をすることで、人類の保護という責務を自社の利益の外に出したようだ。これは無理からぬことかもしれない。というのも、xAIは営利目的の投資家を満足させなければならないからだ。

 Altman氏は、OpenAIの膨大なコンピューティングニーズに対応するため、約440億ドルを調達しようとしている。一方、xAIは2024年12月、ベンチャーキャピタリストから60億ドルを調達したと発表し、この取引で同社の企業価値は450億ドルと評価された。

 中国の「DeepSeek」モデルへの関心が1月に急激に高まったことで、OpenAIの「GPT」ファミリーやMusk氏のGrokを含め、全てのクローズドソースモデルの前途に暗雲が垂れ込めているようだ。最終的には、ますます多くのAIイノベーションが、少なくとも大規模言語モデルが、オープンソース化されていくだろう。「Linux」ムーブメントがOSやプログラミングフレームワークなどを席巻したのと似た道をたどることになる。

提供:Marc Piasecki/Getty Images
提供:Marc Piasecki/Getty Images

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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