アステラス製薬が語る、「クラウドはオンプレミスより安全」とする条件

渡邉利和

2018-02-09 10:20

 アステラス製薬が米Verizonの「Secure Cloud Interconnect(SCI)」を採用した。ベライゾンジャパンが2月6日に開いた記者会見で、アステラス製薬の情報システム部がクラウド環境への接続について、その取り組みを紹介した。

 SCIは、主要なクラウド事業者との間であらかじめ確立された広帯域の専用線接続を通じて、ユーザー企業が各クラウド事業者のサービスをインターネットを通らずに、安全な閉域網接続ができるようにするサービス。グローバルでの接続が可能であり、短納期で開通するなどのメリットがあるという。

アステラス製薬
アステラス製薬 情報システム部長の須田真也氏

 アステラス製薬 情報システム部長の須田真也氏は、まず2015年に情報システム部門のミッションが新たに定められたと説明した。同社は、2005年に山之内製薬と藤沢薬品の合併によって発足、医療用医薬品に特化したミドルサイズの製薬会社といい、より大規模な製薬会社と競争していくために、ビジネスの効率化やスピードアップが重要だという。

 同社は日本企業ではあるものの、国内よりも海外売上比率の方が高いといい、研究開発などはグローバルで行われている。情報システム部門では、2015年にそれまでの地域別組織からグローバルで1つの組織に変更を行い、その際に情報システム部門のミッションを再定義した。従前のシステムを構築、運用することではなく、「ビジネスで使われる情報、情報の価値にフォーカスを置き、情報に価値を与え、その“価値をもつ情報”が適切なところに適切な届けられる仕組みを作り、安全に安心して使ってもらえるようにする」ことを情報システム部門のミッションとしたそうだ。

 その上で、具体的な取り組みの3本柱として「デジタル化の推進(Digitalization)」「(業務/ITの)シンプル化(クラウド活用を含む)」「グローバル化(まだ完全ではない)」――を掲げ、取り組みを進めている。

 大方針としてクラウドの活用を掲げてはいるものの、製薬会社としての業務の性格上、セキュリティの確保も重要となる。須田氏は、クラウドのセキュリティについて「5年前であればオンプレミスの方が安全と判断したかもしれないが、現在ではクラウドの方がセキュアだと言えると考えている」とし、さらに「ただし、『正しいクラウドサービス事業者を選ぶ』こと、『クラウドサービス事業者と我々のネットワークを正しい形で接続すること』の2つが必須要件となる」と語る。そして、この“正しい形で接続”するための手段として選択されたのがSCIということになる。

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アステラス製薬 情報システム部 インフラグループ課長の矢ヶ部泰法氏

 情報システム部 インフラグループ課長の矢ヶ部泰法氏は、SCI導入の経緯について、2015年にクラウド活用の推進を打ち出した後、実際に2016年頃からビジネスの現場でクラウドの活用が本格化したが、その際に、一時的にセキュリティ状況の曖昧な接続が使われたり、インターネット経由でのアクセスが行われたりといった、いわゆる「シャドーIT」的な状況が生まれたと話す。こうした状況を改善し、セキュリティを一元管理できる体制として導入されたのがSCIだと位置付けられる。

 同時に矢ヶ部氏は、「ITインフラがアプリケーションやビジネスの開発の邪魔をしてはいけない。セキュリティを担保しつつ、スピードを上げていかないと、イノベーティブな仕事はできない」と語り、迅速性も重要な要件だとした。

 セキュリティのために従来型の閉域網接続でクラウド事業者と直接接続しようとすると、作業を始めてから接続が完了するまでに3カ月程度を要する。SCIでは、あらかじめベライゾンが主要クラウド事業者との接続を完了しているため、回線の開通は2~3日で完了し、大幅にスピードアップされたことで、アステラス製薬ではビジネス部門からも好評だという。同時に、トラフィックの詳細なモニタリングやレイテンシのレポートなどもベライゾンから提供されるため、トラブルシューティングなども効率化されたという。

 クラウドの活用に関してはセキュリティが問題となることも多いが、須田氏は「クラウド事業者は本業として取り組むことから、ユーザー企業が独自にセキュリティに取り組む以上のコストや技術を投入でき、結果的に自分たちでするより、セキュアな環境を実現できるはず」と言う。

 クラウドならなんでも同じではなく、信頼できる事業者を選定することが大前提となる話だが、そこに安全に接続するためのネットワーク環境を組み合わせればオンプレミスよりも安全な環境が実現できるという話がセキュリティには極めて敏感であろう製薬会社から出てきているということは、クラウドの活用を考える多くの企業に取っても心強いことではないだろうか。

「Secure
「Secure Cloud Interconnect」の概要(ベライゾン資料)

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