ガートナー ジャパンの「ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス 2019」が4月23~25日に開催された。ゲスト基調講演には、Preferred Networks(PFN) 執行役員 最高業務責任者の長谷川順一氏が登壇。深層学習(ディープラーニング)の活用事例について、同社の取り組みを動画で紹介した。
PFNは、2014年3月にプリファードインフラストラクチャーからスピンアウトして設立した企業だ。IoT(モノのインターネット)分野に深層学習を応用する事業に取り組んでいる。交通システム、製造業、バイオヘルスケアを重点事業領域としており、トヨタ自動車、ファナック、国立がん研究センターなどと協業している。
車載映像から他車や標識などをリアルタイムに認識
同社は重点分野の1つの交通システムで、画像認識を利用した自動運転システムに取り組んでいる。講演では、深層学習の動画として、コンピューターのレースゲームのようなシミュレーター動画、物理的な模型自動車を用いた動画、現実の自動車に取り付けたカメラ映像を認識している動画などを紹介した。
Preferred Networks 執行役員 最高業務責任者の長谷川順一氏
レーシングカーのシミュレーターの動画は、2015年に実施したもの。レーシングカーを強化学習によって速く走れるようにした実験だ。自動車に付けたセンサーが壁までの距離や他社との距離を測り、アクセルやステアリングを操作して運転しながら、どうすれば速く走れるのかを学習する。
壁やほかの車にぶつかったり、道路から外れたりすると減点する。逆に、うまくいくと得点する。これを、7層のニューラルネットを使って学習させた。「人間が教えなくても、コーナーをアウトインアウトで回った方が速いことなどを、勝手に自力で見つけてしまう」(長谷川氏)
別の動画では、物理的な模型自動車の例を見せた。LEGOマインドストームの自動車にカメラを付けて、障害物にぶつからないように走らせた。最初は1つの障害物から学習させていき、徐々に障害物を増やしていく。「1時間ほど放っておくと、うまく走れるようになる」(長谷川氏)という。
自動運転の成果の1つとして、2016年のCESのトヨタ自動車ブースで展示した模型自動車の動画も見せた。4日間の開催期間中、1度も他車にぶつかることがなかった。汎可性を調べるため、学習時には存在していなかったリモコン操作の自動車模型を投入して故意に邪魔をしたが、それでもぶつからなかったという。
トヨタ自動車と自動運転領域で協業している実例として、実際の自動車が首都高速の入口から道路に入っていく時のカメラ映像から、映っているオブジェクトをリアルタイムに分類できている例を見せた。
「どこが車で、どこが標識なのか、などを認識できている。あとは制御と組み合わせて商品化するだけだ」と長谷川氏。講演では、高速道路だけでなく、一般道のカメラ映像も見せた。自動車、自転車、歩行者などをリアルタイムに認識できていることを示した。
産業分野では部品のピッキングや外観検査、制御や異常検知に利用
ファナックと協業している製造業向けの事例も紹介した。ロボットアームによる部品のピッキングの動画や、製品の外観検査の動画を見せた。
ピッキングでは、まずばら積みした円柱状の部品を、ロボットアームで吸引して取り出す動画を見せた。「1000回の試行で50%、5000回の試行(8時間)で90%の精度が出た。これは熟練者のチューニングに匹敵する」(長谷川氏)。さらに、1台のアームで8時間かかる学習も、8台のアームなら1時間で学習できる。
ピッキングは、既に倉庫、物流、コンビニエンスストア、スーパーなどで、実際に使われて始めている。「初めて見る物体でも、素早くピッキングできる。学習済みのモデルを使い、追加学習なしでピッキングできている」(長谷川氏)
産業分野の外観検査にも深層学習が使われている。部品の品質検査や、カーペットに染みがあるかないかを調べる用途などだ。PFNでは、外観検査のためのアプリケーション「Visual Inspection」を販売している。「飛ぶように売れている。サンプルデータが少なくても使える」(長谷川氏)
この他の産業分野での応用例を、幾つか紹介した。削り出し機械への応用では、熱膨張を学習することで暖機運転の時間を不要にした例、製造ラインの異常検知、故障の予兆検知、パラメーターのチューニングの最適化などの例を紹介した。「デジタルツインによる制御の自動化・最適化では、深層学習によってシミュレーターと現実の違いを導ける」(長谷川氏)