「AI(人工知能)は中長期的に見てインパクトが大きい。AIがデジタルの中核であることは間違いない。開発する際には、ベンダーに丸投げするのではなく、自社で試してみることが大切だ」
6月14日、「ガートナー データ&アナリティクスサミット2018」のセッションの1つとして、ガートナーのリサーチ&アドバイザリ部門でバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明氏が登壇。「AIトレンド2018」と題して講演した。
ガートナーのハイプサイクルにおいて、AI(人工知能)は現在、過度な期待のピークにある。これから幻滅期に入っていく。冷静に、本物と偽物を見分けて有効なアクションへとつなげる段階になる。
チャットボットは無料からSI案件まで幅広い
ガートナーのリサーチ&アドバイザリ部門でバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明氏
講演の前半では、需要が大きいチャットボットへの取り組み方について解説した。ガートナーへのチャットボットの問い合わせは非常に多く、ほとんどのユーザーが導入したがっている。
チャットボットを実現する製品サービスには、数十もの選択肢がある。チャットボットと一口で言っても、無料で使えるものから、SIベンダーに発注して1000万円を超える案件まで、バリエーションが広い。
チャットボットの大半はAIではなく「人工無能」だと亦賀氏は指摘する。学習は特になく、質問に対する回答のように、あらかじめ作りこんでおく。例えば、「明日の天気は」の問いに、「場所を選んでください」と選択肢が出て、「東京」を選ぶと「東京は晴れです」と回答を得られる。
仮に人工知能でチャットボットを実現した場合、このようになる。「明日は晴れるの」という問いには、「晴れるかもしれないけど自信がない」と回答がある。これに「頑張ってね」と返すと、「勉強中なので答えられなくてすみません」と返ってくる。こういった具合だ。
無料のチャットボットAPIをまずは試してみよう
チャットボットは作り方が大切だと亦賀氏は言う。付き合いのあるSIベンダーに頼んだけどマトモなものができないといった例もある。一方で、ベンチャー企業が開発した安価な製品や、無料で使えるAPIサービスなどもある。
「比較表で機能を検討するくらいなら、まずは無料で使ってみればいい。さっさと使ったほうが早い。ダメならやめればいい。チャットボットのスキルが身に付いたら成功」と考えた方がいい」(亦賀氏)
亦賀氏も、米Googleが提供している無料のAPIサービスであるDialogFlowを使って簡単なチャットボットを作ったという。「慣れた人なら1日で運転を開始できる」(亦賀氏)
このほかにも、IBM Watson Conversation Serviceや、Microsoft Bot Frameworkなどのベンダー製のチャットボット開発環境がある。Amazon Lexはこれから日本で使われるようになる。
ただし、音声認識については、日本語の問題もあり、期待が過剰だと亦賀氏は言う。AmiVoiceなどの古くからある製品サービスが現実的という。
AIを自分で開発するための基盤ソフトが普及
講演の中盤以降では、注目すべきAIの新しいトレンドをいくつか紹介した。
トレンドの1つは、2017年後半から2018年にかけて、AIの開発基盤が普及しつつあることだ。以前は完成品のAIエンジンをAPI経由で使うスタイルが主流だったが、現在ではAIの開発基盤を使って自分でAIエンジンを作るスタイルに移りつつある。
例えば、米Uberでは、2017年9月に、それまで社内でバラバラだったAIの開発環境を統合した。Watson Data Platformも2017年11月に強化し、AIエンジンを作ってデリバリするための仕掛けを搭載した。
アルゴリズムの開発や試行を支援するサービスも増えている。米DataRobotの「DataRobot」は、最適なアルゴリズムを自動で見つけ出す。ソニーは「Neural Network Console」を無償で提供している。グリッドの「ReNom」は用途に合わせたテンプレートが充実している。このほか、特徴量を自動で生成するツールなども、富士通などのベンダーが出している。
専用のプロセッサやGPUなどのハードウエアも進化している。例えば、米NVIDIAのパソコン向けGPUカード「TITAN V」は、わずか40万円で110テラFLOPSの性能がある。Raspberry Piで安価にAIを動作させることもできる。