EAの実作業の多くは、図表(モデル)の作成に費やされる。したがって、図表作成ツールとなるソフトウェアの選択が、EAの作業効率を大きく左右することになる。
第一の選択肢は、表計算やプレゼンテーションソフトなどのオフィススイートを利用した描画である。オフィススイートを利用する最大のメリットは、価格が安く、また既にソフトウェアを有している企業が多いことから、他の選択肢に比べてツール購入のコストが少なくてすむ点であろう。しかし、それ以上に注目すべきなのは、社員教育のコストと思われる。オフィススイートであれば、特にツールの使い方について研修を行う必要はない。実際、こうした理由から日本政府のEAでは、Excelなどでモデリングが行われているケースが多い。ビジネスアーキテクチャを中心としたEAでは、オフィススイートの利用は最も現実的な選択肢の一つである。
第二に、データモデリングやプロセスモデリングの各種ツールを組み合わせて使うパターンがある。この場合、ツールはオフィススイートに比べて各モデリング分野に特化しているため、各段に豊富な機能を利用することができる。一方で、経営ニーズをITに反映させることがEA遂行の最大の目的の場合には、必ずしも適していないかもしれない。それは、こうしたツールで作られたモデルは、ビジネス側に属する人が理解するには複雑になりすぎる傾向があるからである。また、個別のツールで作成すると、モデル間の整合性を図り難くなる。こうしたことから、この選択肢はデータアーキテクチャなど、EAの中でも一部の層に集中的に取り組む際に適した選択肢といえる。
第三の選択肢は、UMLのモデリングツールで全ての図を描く方法である。比較的ツールのコストも低く、また統一的なモデリングが可能というメリットがある。一方で、UMLによる記述は、ビジネス側の人にとって必ずしも直感的に理解しやすいものではない。したがって、経営トップを含めてUMLによる統一的モデリングの利点が十分合意されている場合に選択すべきオプションといえよう。
第四に、さまざまな図表やEAフレームワークをサポートし、カスタマイズも可能なEAツールを採用する選択肢がある。この選択肢は、第二のパターン同様、ツールに比較的コストがかかる。しかしながら、作成した図表を最新の状況に維持し続け、継続的にシステム改善に利用していくのであれば、結果的には最もコストの少なくすむ選択肢となる可能性が高い。EAのモデリングは、単に図が描ければ終わりという作業ではない。新たな図を描く以上にモデル間の整合性や関係の把握に体力がかかる。ツールによりモデル間の整合性維持やアクセス管理を自動化することができれば、モデルの維持改善に要する時間が格段に少なくすむようになる。EAツールは、単なる描画ソフトではなく、各種の情報を統一的に保存していくデータベース(レポジトリ)ツールといえよう。また、この選択肢ではカスタマイズによって、自社に最も適したフレームワークを作り上げ、EAを進化させていくこともできる。競争力強化のために長期的にEAに取り組んでいく場合には最も適した選択肢の一つといえる。実際、欧米ではこの選択肢を採用する企業が増えてきている。
どのようなツールを選択すべきかは、EAが対象とする範囲、その目的によって変わってくる。ツールを途中で変更するのはそれほど容易なことではない。単純に手持ちのソフトウェアでEAを始めるのではなく、EAのそもそもの目的、長期的なビジョンを十分に検討したうえで、最適なツールを用いてモデリングを行っていくことがEAを成功に導くためには重要といえよう。
(みずほ情報総研 EAソリューションセンター 近藤 佳大)
※本稿は、みずほ情報総研が2005年1月11日に発表したものです。